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完全無欠な異世界 1

あらすじ

 ミノタウロスに両断されたはずの道周とマリーは、目を開けると上空へ放り出されていた。

 落下する最中、2人が眼下にしたのは完全無欠な異世界。夢と不可思議が広がる土地だった。

 北方の白い土地に南方の砂漠地帯、禍々しい城塞と未知が広がる中、道周とマリーを襲う者が現れる。

『FuuuGaaa----!!』


 耳に残る獰猛な雄叫び。

 その後走ったであろう痛みと衝撃は覚えていない。

 切り離される上下の身体、浮かぶ視界は反転のち暗転。


 次に目を覚ましたときには----、


「な……、なんじゃこりゃぁぁぁあああ!!」


 叫んでいた。


 サーモンピンクのコンビニ店員2人が高度1000メートルから自由落下。叫び声を上げたのは金髪のJKアルバイト、マリー・ホーキンスである。

 マリーは落下で靡く金の長髪を抑えながら、眼下に広がる広大な世界に発狂していた。


「待って落ちてる! 落ちてるよ! 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死んじゃう!!」


 パニックである。

 同じくサーモンピンクのコンビニ店員、小堂(こどう)道周(みちちか)は落下に身を任せていた。

 道周は落ちながらも辺り一帯を見回す。

 眼下には緑生い茂る森と木々に囲まれた青色の湖。どうやら道周たちは湖に投げ出されるようだ。

 道周は落ち着いてさらに周囲へを目を向けた。雲一つとしてない空の中、さらには澄み渡る空気のおかげで遠方まで鮮明に見渡せる。

 遠く向こうの大地には白い山脈の連なり、麓には不自然な暗幕の土地が小さく垣間見える。

 視線を180°移せば、これまた遠方に砂漠地帯が見える。その中で一瞬しか見えなかったが、気のせいでなければ太陽のような輝きがあった。


「っ! おいおいマジかよ……!」


 そして道周は見てしまった。

 それは眼下の都市の文化レベルや荷車を押す猫耳の獣人よりも、遥かに衝撃的なもの。

 視線を移した先に聳え立つ圧倒的な存在感を放つ城塞。黒い霧を尖塔に漂わせ、禍々しい圧で来るものを拒絶する雰囲気。周囲の空中を飛行する翼竜に数多の怪物。

 決して近くはないはずなのに、身が引けてしまうほどの威圧感。


(この世界にもいるのか)


 刹那、道周は己に課せられた使命を理解した。

 再び、この世界の不調和を討つのだと。

 同時に空中でパニックになっているマリーの手を掴んだ。


「見てみろよマリー。半端ねぇぞ!」

「……ふぇっ!?」


 道周に誘われマリーは辺りを見回す。落下は未だ継続し、現在高度300メートル。

 マリーが目にした景色は、周囲の何よりも高い場所からの絶景に違いはない。

 華の女子高生マリー・ホーキンスが目にしたのは、完全無欠な異世界だった。


「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!」


 マリー、再び叫ぶ。

 自由落下は止まらない。

 落下先がいくら湖といえど、高度1000メートルから勢い付けば、コンクリートに落ちるのと大差ない。人の身体などバラバラのバラだ。

 何とか正面からの着水は避けなければと、道周は左手首の群青に手をかける。

 しかし道周が魔剣を出現させるより先に、2人は下から吹き上げた風に身体を浮かせる。


「これはっ?」


 道周はあまりにも不自然な風の流れに違和を感じる。

 風はその後も連続して発生し、2人の落下の速度を打ち消し続けた。

 吹き上げる風に身を任せ、マリーは口元が弛んだ。


「ちょっと楽しい」


 ドッッパーーーン!!


 高い水柱を上げて着水。減速はしたものの、勢いを完全に相殺できたわけではなかった。




「ほんと最っっ悪っ!」


 湖畔に上がったマリーは、開口一番悪態を吐いた。誰に向けられたわけではないが、誰かに向けられた方がやるせなさはあっただろう。

 同じく上陸していた道周も、アルバイトの制服を絞っていた。

 マリーも制服のボタンを外して脱ぐと、くしゃくしゃのまま力一杯に水を絞り上げる。

 道周はマリーの動作を横目で見つつ、心落ちしたように舌打ちをした。


「チッ」

「……なによ」

「透けてねぇなと思って」


 マリーは制服の下に、黒いTシャツを着ていた。

 道周もさすがに下着に直接制服を着ている、なんて思っていたわけではない。

 しかし白などの薄いシャツを纏い、水に濡れるとピンクなどの可愛らしい下着が透けて見えていたっていいじゃないか!


「むしろ黒とか紫の方がマリーの純真無垢・活発少女という印象とのギャップがあって得点高い」

「な、何を言ってんじゃ!」


 耳まで紅潮させたマリーが、未だ水を含み思い制服を投げ付けた。そのまま身体を抱くように隠し、少しでもと道周から距離を取る。

 当の道周本人は制服をキャッチすると、悪びれる様子もない。


「待てこれは場を和ませようとしたんだ。不可抗力」

「そんなわけあるかー!」


 マリーが立て続けにスマホを投げた。水没してしまい完全に駄目になってしまった四角い電子機器は、その角で道周のこめかみを突き刺した。

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