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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
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剣を落とせ

あらすじ

開幕したリベリオンの戦い。都市の守護者たちは夜空を舞い、その素早さを持って迎え撃つ。熱を帯びる戦いの天秤は、一体どちらに傾くのだろうか。

 リベリオンが都市の一角で起こした暴動は、人伝いに伝播し波紋のように都市全体に広がった。

 鼓膜を揺らす轟音と目を覆いたくなるほど眩い火の光は、喧騒を巻き起こす引き金と同時に仲間への号令でもあった。

 待機していたリベリオンの別部隊が発起する。都市の3箇所で沸き立つ咆哮が更なる混乱を巻き起こす中、吸血鬼たちで構成された近衛兵たちと接敵した部隊は戦闘を繰り広げていた。


 飛翔する吸血鬼を撃墜戦と、オーク族の剛腕が矢を放った。鋭利な矢じりは空を切り裂いて空を飛ぶ吸血鬼へ迫る。だが洗練された体捌きで吸血鬼は一矢を避けた。

 その後も地上からの迫撃は繰り出されるが、空中の吸血鬼に直撃はしない。

 踊るような乱舞で自由自在に宙を舞った吸血鬼たちは、攻撃の間断を見逃さずに突貫を仕掛けた。


「剣を構えろ、降下してくるぞ!」


 ライムンの指示を受け、近接戦に特化した兵士たちが構えをとった。

 急降下する兵士たちはすい星のように苛烈な剣先を光らせた。


「迎え撃て!」


 兵士同士の突貫同士が激突した。鼓膜を突き刺す金属音が鳴り響く。突貫と迎撃の連続が鳴り響く。吸血鬼の強襲は寄せては返すさざ波のようなヒット&アウェイの連続だた。制空権を持った吸血鬼が一方的に攻撃の権利を握っている。


「くそ! 飛ばれたら届かねえだろ!」


 人狼(ワーウルフ)たちは獰猛に牙を剥いて恫喝する。隠すことのない苛立ちは伝播し、飛べない種族の兵士たちは怒号を飛ばす。

 一方で戦いの主導権を握った吸血鬼たちは余裕の飛翔で宙を舞っていた。


「落ち着いて当たれ。翼がない者には優位をもって空から攻める」


 部隊を率いる男が冷静に指揮を執る。男のの胸には2つのエンブレムが輝いており、他の吸血鬼とは異なる覇気を放つが、近衛兵のリーダーであるケイオス・ヴォイドには及ばない。おおよそ普段から指揮を執ることは少ないのか、慎重に部隊を運用する。


「矢は下からだけでなく、上から降る迫撃にも気を付けるんだ。何としてもこの場を抑え――――!?」


 その瞬間、優位を持って空にそびえる吸血鬼たちに激震が走った。この場で唯一翼を持つ吸血鬼たちの油断を穿ったのは、同じく翼を持つ吸血鬼だった。


「ライムン・ヴォイド!?」


 焦燥に道った吸血鬼の誰かが、襲撃者の名を呼んだ。

 名を呼ばれた吸血鬼、ライムン・ヴォイドは漆黒の皮膜を広げて剣を構える。ライムンは眉間にシワを寄せ、鋭い剣幕で発破をかける。


「どうした近衛兵たちよ! たった20人そこいらの頭数で押せると驕ったか! オレたちの覚悟を舐めてくれるなよ!」


 燃えるような怒号を言い放ったライムンは剣を打ち鳴らした。火花を散らした刃を夜店に掲げて、ただ1人で空中戦に挑む。


「ハァァ!」


 高速の飛翔で兵の群れに突っ込んで銀の剣を振り回す。一見出鱈目に見える暴動も、ライムンの気迫が兵を圧倒する。隊列を乱し、群れる兵たちを蹴散らした。


「隊列を戻せ! 乱されるな!」

「そんな指示じゃ仲間は付いて来ないぞ」


 近衛兵の指揮を執る男にライムンが突貫した。指揮系統を抑えつけたライムンは、眼下で戦うリベリオンの同志を鼓舞する。


「弓を持つ者は矢を番えろ! 攻め時だ!」

「「「ウオォォォ!!」」


 獣より猛々しい雄叫びが共鳴する。怒りと苛立ちを力に変えたリベリオンの兵士たちは、地面を揺らして攻勢に転じる。

 飛び交う矢の彗星が天へ昇り、疎らに散った吸血鬼を追い詰める。

 徐々に追い立てられる吸血鬼たちに指揮系統は存在しない。一気呵成に攻められる吸血鬼たちは、半ば自棄になり作戦無視の特効を仕掛ける。


「こうなったら、俺たちも攻めるぞ!」

「おうっ!」

「行けぇ!」


 口々に気合と口上を述べ、吸血鬼たちは急降下をした。リベリオンの直上を掠めるほどの低空飛行で攪乱、素早い特効は無策ながらも効果的だった。

 剣と棍、爪と牙が激しくぶつかり、ガス灯が並ぶ街並みは激しく乱れる。


「皆離れて、大きいの一発行くよ!」


 両軍入り乱れる戦場で、透き通る可憐な声が鳴り響いた。荒くれた戦場から乖離した声に、誰もが振り向く。

 凄みのある視線の数々を受け、声の主であるマリーは思わずたじろいだ。しかしマリーは気丈に頭を振って、握ったステッキを振りかざした。そのステッキには尋常ならざる魔法が起動している。マリーの頭上に浮かんだ光球は直径100センチメートルを超えていた。


「な、何だあれは!?」

「あんな巨大な魔法見たことないぞ!」

「あの女は何者だ?」

「まさか……魔女!?」


 マリーの埒外な規模の光球を目にし、次々と驚愕の声が上がった。その驚きの叫びは吸血鬼たちのみならず、リベリオンの兵士たちからも上がっていた。

 リベリオンの兵士たちは、あらかじめマリーの魔法についてライムンから聞き及んでいた。しかし「異世界から来た少女が、常識はずれな魔法を操る」などと言われたところで眉唾である。いくら隊長たるライムンの忠告であろうと、想像の範疇は超えないものだと高を括っていた。

 しかし、実際に目にしたらどうであったか! マリーの魔法の規模は、人間(ヒューマン)の扱うそれを超えていた。想像だにしない、できるはずもなかった。

 リベリオンの兵士たちも吸血鬼たちも、夢でも見ているのかと光球から目が離せずにいた。目の前の巨大な光球の威力はお察しだが、燦然と眩い輝きに心を奪われる。


「皆さん、避けてください!」


 狐につままれたように呆けている兵士たちは、ソフィの檄で我に返った。まざまざと熱量を放つ光球の恐ろしさに身の毛がよだつ。


「行くよ!」


 タイミングを見計らったマリーがステッキを振るった。光球はマリーの行動に従い、重い身体が動き出した。その初速は緩慢としていたが、順調に加速する。数秒の内に弓矢よりも早くなると、地上の吸血鬼に向けて着弾した。


 ズゥゥゥン!!


 重鈍な轟音が腹の底で木霊する。光球の爆発は視界を白く覆い隠し、爆炎は激しく肌を焼く。誰もが思わず身体を庇い身を守る。

 魔法の大爆発は火薬の爆弾の比にならない激震をもたらす。膨れ上がった空気の震撼は徐々に収まる。爆心地の街道には、巨人の拳のような窪みがあった。

 爆発と余波が収まったとき、吸血鬼たちの注目はマリーに向いていた。

 マリーの一撃での死者は0だった。しかし魔法が与えた衝撃は大きな爪痕を残した。


「――――……魔女だ。魔女から始末しろ!」


 誰かが叫んだ。それは本能が鳴らした警鐘であり、命の危機を回避した後に訪れる生存本能による排除の行動である。

 難敵を見据えた吸血鬼たちは剣を掲げ皮膜を広げた。

 血気に逸る喊声はすぐさまにマリーへ迫る。剣と眼光が放つ殺意は、電光石火でマリーへ突き立てられた。


「捉え」

「させません!」


 マリーの影に潜んでいたソフィが、接近した吸血鬼を撃墜した。ソフィの短剣は吸血鬼の喉元を捌いた。頸動脈から溢れる血飛沫がレンガに滴り落ちて舞い上がる。

 ソフィは1人目の撃墜に慢心することなく、逆手に短剣を構えて殺意で威圧する。


「挟み撃て! 数と速さと制空権で押せば勝てる!」


 吸血鬼たちはここ一番で連携を見せる。3人の吸血鬼たちが前後と宙から、マリーたちを挟撃する。


「速さと制空権はまだしも、「数」で優位はこちらですよ。ね?」

「ええ、よく理解していますねソフィ」


 吸血鬼の連携に対抗するのは、「ハンナ」の連携だ。

 ソフィを庇うように飛び出したシャーロットが、自慢の巨躯で聳え立つ。鉄の手甲を打ち鳴らして大木のような巨腕を振り回す。

 力任せに回された裏拳と猿臂が吸血鬼たちを捉える。鈍い音ではじき返され、吸血鬼たちは余儀なく撤退をした。


「くそ……、守りも強固か……」


 吸血鬼たちは思わぬ強敵に手をこまねいている。圧倒的なアドバンテージを持っていた空もライムンに乱され、地上戦も頭数で圧倒される。そして時間をかけて個の討伐を図っても、マリーの魔法が出鱈目に進路を塞ぐ。

 20という少数で300弱の敵を迎え撃たされている近衛兵の戦線は、もう限界を迎えていた。


「BuRoooOOO!!」


 戦場に野獣の方向が鳴り響くまでは――――。

「BuuuRoooOOO」(cv.若本規夫)

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