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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
39/369

残罪の抜錨 2

第38話「残罪の抜錨 1」の続き

「--------ネ。……セーネ。セーネ!」

「っ!?

 ……済まない。僕としたことが、少し物思いに耽っていたようだ」


 マリーに肩を揺さぶられて、やっとセーネが反応を返した。セーネは咄嗟に作り笑いで誤魔化すが、眉をひそめたマリーが顔を覗き込む。


「私はセーネに何があったか分からないけど、大丈夫! セーネの理想はきっと伝わっているよ! 誰かがその理想を継いでくれてるから、大丈夫!」

「あっ……ありがとう」


 マリーの力強い言葉にセーネの表情が綻ぶ。

 マリーはつくづく天真爛漫ではあるが、人を惹き付け励ますカリスマ性を秘めている。


(なるほど、これは励まされる)


 太陽のようなマリーの温かみに触れ、セーネは強張った表情を崩した。

 しかし手厳しい感想がリュージーンから溢れた。


「俺からしたらクソどうでもいい話だったな。反発するやつらは、言いがかりでまとめて飛ばせばいんだぉわ!」

「リュージーンは黙ってろぉい!」


 空気を読めない蜥蜴に道周が鉄拳をお見舞いする。脳天に拳骨を振り降ろされ、リュージーンは恨めしげな目で睨み返す。


「んだよミチチカ! 俺は正直な感想を言ったまでだ。

 白夜王の言った綺麗事なんて俺から言わせたら「王ならやって当然のこと」なんだよ。鳥肌立ったわ!」

「うるせぇ! 蜥蜴のクセに鳥肌立ててるんじゃない!」

「関係ねぇだろ! 鳥肌も鮫肌も立つわ!」


 道周とリュージーンの言い合いに火が着いた。熱を増す2人は椅子を蹴倒し、胸ぐらを掴んで額を突き合わせながら頭突きをかます。

 言い合いから喧嘩、喧嘩から殴り合いにまで発展した2人を見て、セーネが強く長机を叩いた。

 バンッ! 陶器のカップが激しく音を立てて揺れる。

 一同の視線がセーネに集中した。


 --------やりすぎたか?


 道周とリュージーンの背筋に冷や汗が走る。


「ふ……、は……、ははは! いいぞミチチカ! 生意気なリザードマンくらい素手で下したまえ! 私は君にベットするぞ!」


 気前いい高笑いが広間に響き渡った。セーネは机を叩いて、下品にかつ楽しそうに囃し立てる。

 落ち着いた印象の強かったセーネの異様な振る舞いに、喧嘩する2人も思わず手を止めた。

 マリーもシャーロットでさえも奇異な眼差しを送ったが、「人の一面」など些細な問題であると気が付く。

 心の底から馬鹿笑いをしたセーネに、誰も彼もが乗せられる。

 道周もリュージーンも、互いを掴んだ手に力を込める。


「よしきた! セーネ、お前が賭けた男の力、見せてやる!」

「ふんっ! 白夜王ともあろう者が落ちたな。このリュージーン様が人間(ヒューマン)ごときに遅れをとるものか!」


 火に油を注がれ、男たちの喧嘩は躊躇のブレーキを外した。

 組み合った2人は拳を使わず、終始頭突きで力比べをする。加熱する2人は額からの流血など気にも止めず、飽きもせずに頭突きの繰り返し。

 馬鹿である。


「そんなに頭ごっちんこすると馬鹿になるよー」


 マリーが野次を飛ばす。

 しかし、マリーの言葉には語弊があった。


 この2人、すでに馬鹿である。


「いいぞ、やれやれー!」

「まだ躊躇いがございますね。不肖シャーロット、思い切った方が勝つと進言いたします」

「違うぞシャーロット。ここはミチチカに勝ってもらわねば、ベットした僕が困る。ミチチカには僕の顔を立てるために、死んでも勝ってもらうよ」


 沈鬱な空気が支配していた広間はどこかへ消えてた。

 道周とリュージーンが沈んだセーネを元気付けるために意図的に始めたのか、その真意は誰にも分からない。

 ただ、ここには純粋に馬鹿になる者たちだけが集う秘密の祭りのよう。他意のない純朴で透明な笑顔がそこにはあった。


 道周とリュージーンの喧嘩はその後も続く。どちらも粘る一進一退の頭突き合いは、事情を知らぬソフィの帰還で終結することとなる。


 「ソフィ・ハンナ、ただいま帰りまし……って、何やってるんですかー!?」


 誰もがソフィの叫声に注意を引かれたとき、道周が見事な背負い投げで一本を取って決着したとさ。


 めでたしめでたし……?

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