道の先に
「――――……がっ! ……無事、だったの……?」
一方で、紫炎の海の中でマリーは瞳を開ける。視界を覆う絶望的な紫炎の波に死まで覚悟したが、その身体は無事の一言に尽きる。
防御も回避も間に合わなかったマリーたちだが、這い寄る紫炎は不可視の壁によって遮られている。
「ガウロン……!」
マリーは咄嗟に顔を上げる。空に佇む鷲獅子は苦悶に顔を歪ませながら、大翼を広げて不可視の壁を展開していた。
「グ……、ゥゥゥ……ガッァァァ!」
気合いで咆哮を上げるガウロンの身体は炎に爛れている。咄嗟に眼下に大気の壁を展開したガウロンだったが、その身体を覆うことはできなかった。仲間を守るための壁の厚さと強度を優先し、己が防御を後回しにしたのだ。
「おいガウロン。貴様、なんて無謀なことを……!」
「喧しい。我とて誇り高き幻獣である。ドラグノートがいなくなったからと言って、我が気概を見せずとてどうするかっ!」
ガウロンはバルバボッサの言葉を吐き捨てた。紫炎に焼かれ満身創痍ながらも、魂と意地だけで頭を持ち上げて誇りを叫んだ。
「そうだともガウロン。妾たちが膝を折ってはいけぬ。例え焼かれようと砕かれようと、その身で先陣を切らねば誰が往くのか!!」
ガウロンの気高き姿にスカーに火が付いた。大地を覆う紫炎の海に抗うスカーは、全身に黄金の炎を纏った。金翅鳥の鎧を纏うスカーは、その身を業火の化身に変えて海を駆け抜ける。
一帯を覆う紫炎の海をスカーが切り裂く。黄金の奇跡が醜悪な炎を切り裂き、先へ進むための道を切り開く。
「おれらもスカーに続くぞ!」
「ミッチーの加勢に行くよ!」
スカーが切り開いた道をマリーたちが駆け抜ける。ガウロンが攻撃を防ぎ、スカーが道を開拓する。仲間が紡いだ道を疾走し、単独で戦う道周の元に向かう。
魔王が総力を傾けたということは、マリーたちの攻撃が響いている証拠である。目の前の勝利に向かって全力で畳みかけようと前進する。
孤軍奮闘する道周の背が見え、加勢せんと士気をあげたとき、血相を変えた道周が振り返った。
「皆逃げろ! こいつ、自爆するつもりだ――――!」




