セーネの告白 2
「セーネの告白 1」の続き
「俺とマリーを召喚したのは誰だ?」
場の雰囲気が一瞬にして凍り付いた。
散々茶化していたマリーの作り笑いも張り詰めている。
控えてるシャーロットも心なしか眉をひそめ、主へ無礼を働いた道周を締めようかと身構えている。
そんな緊迫した空気を打ち破ったのは、セーネの高笑いだった。
「はっはっは! いきなり突っ込んだことを聞くんだね。
……いいとも、答えると言ったのは僕だ。嘘偽りはない」
セーネは膝を叩いて哄笑を上げる。主の愉快な様子を見て、シャーロットは矛を納めた。
マリーも弛緩した空気に胸を撫で下ろし、セーネの続くであろう言葉に耳を傾ける。
「「誰が召喚したのか」という問いについての解は「分からない」だ。
以前の僕には世界を越えた召喚を行う術があったが、今の僕にはない。関連する権能は、精々「召喚の予兆を捉える」が関の山だ」
「確かセーネの権能ってやつを勇者に分け与えたんだよね?」
「マリーの言う通りだ。僕の白夜にまつわる権能"星の運航"の半分を勇者に割譲した」
「じゃあ、何で死んだはずの勇者の権能がまだ生きている?」
道周の質問は一々が的を得ていた。
的確な質問にセーネは冷や汗を流し苦笑しながらも回答を渋る様子はない。
「僕にも真実は分からない。ただ可能性として「魔王が勇者の権能を奪った」「"星の運航"の権能以外に異世界召喚を行う権能が存在する」の2つが考えられるかな」
「「勇者が裏切った」ってことは?」
道周の不躾な問いかけに、堪らずシャーロットが身構える。
セーネが身振り一つでシャーロットを諌めるが、マリーが険しい眼差しを道周に向けた。
「ちょっとミッチー! そんなことセーネに言ったってしょうがなくない? セーネは勇者を信じて権能を別けたんだよ。そんな勇者が裏切るなんて」
「有り得なくはないだろう。可能性の議論として省くのはいただけないな」
静観していたリュージーンがここに来て口を挟んだ。
元魔王軍の一員として策略を巡らせ、政戦を潜り抜けてきた者として思うところがあったのだろう。
「ちょっとリュージーンまで……。それじゃあまるでセーネが」
「「出し抜かれた間抜け」ってことになるな!」
悪びれる様子もなくリュージーンは笑い飛ばした。その目に余る非礼さに、シャーロットとマリーは必死に怒りを堪える。
間を取り持つのは道周だった。
「そこまで言うつもりはないけど、可能性として考慮すべきだとは思う。
俺とマリーにとっては一大事なんだ。召喚したやつに会って、「なぜ召喚したのか?」を問い正さなきゃいけない。それに元の世界に戻してもらわないと困る」
「ミチチカの言う通りだ。僕としたことが失念していた。申し訳ない」
セーネが頭を下げ、これ以上の議論は打ち切られる。セーネの潔さと事を荒立てずに丸く納めた手法は、元とは言えさすが領主と言えよう。
しかしマリーは未だ憮然とした顔をしている。
道周はそれを承知の上で、雰囲気を変えようと次の質問を投げた。
「次の質問、単刀直入に聞くけど、ソフィに俺たちを連れて来させた理由を聞きたい」
道周の次の質問にも、セーネはニコッと笑って答える。
「ミチチカなら何となく分かっているんだろう。僕は君たちを当てにしている。
僕も単刀直入に言おう。夜王を倒すのに協力して欲しい」
「私たちで……、夜王を?」
呆気に取られたマリーはおうむ返しをする。
「これは僕たちの下心だ。断られる可能性もあるが、もちろん引き受けてくれるよね……?」
セーネは今までになく邪悪に微笑んだ。
影のある笑みには、かの夜王と同じ血筋を感じさせる冷たさを含んでいる。
「セーネの告白 3」へ続く




