切り開く未来 2
バルバボッサは暴風に乗ることで飛翔し、暴風に背を押される形で爆走する。その岩のような拳に雷霆を纏い、振りかざす一撃は山河を穿つ。
「うおぉぉぉらあぁぁぁ!」
バルバボッサの雷拳は魔王の尾によって阻まれる。
魔王はバルバボッサの重厚な一撃を受けても揺らがない。だが、バルバボッサは手応えを感じていた。今までバルバボッサの攻撃を受け止めていた魔王が、初めて防御をしたのだ。
「好機ダ。オレらも行くゾ!」
「もちろんそのつもりだ」
「では、歯を食い縛レ……!」
「って、おい――――!?」
勢い付いたアドバンたちも攻撃を仕掛ける。手始めとしてアドバンは、抱えた道周を魔王に目掛けて投擲した。
「ぉぉぉぉぉ――――!
こうなったら、押し通るか……!」
流星のように飛ぶ道周は、魔剣の先を前方に向けて差し出した。魔剣の打突の構えのまま、道周は人間投擲槍となって魔王を狙う。
「突飛だなミチチカ。オレも張り切るか!」
投擲された道周を見上げてジノが吼える。高揚したジノは聖剣を掲げ、魔王に向かって猛進する。
『生まれよ我が眷属。我が血と肉を共にする化生よ!』
「「「っ!?」」」
魔王の雄叫びに一早く反応したのはセーネと道周、そしてジノの3人であった。異変に気付いた3人の共通点としては、切り落とされた魔王の腕である。
3人が魔王の叫びと同時に見下げる節足は、転がっていた大地にはなかった。代わりにその場には、狼の頭を持った4つ脚の獣であった。
「GuuuRaaa!」
「BuoOOO!」
2頭の獣はバルバボッサにも匹敵する巨躯で立ち上がり、気高く天へ慟哭を上げる。同時に踏み締めた地面を蹴り抜いて、空を飛ぶ道周に向かって牙を剥く。
「まずは自由のない俺狙いか……。いいだろう……!」
アドバンに放り投げられた道周は不慣れな空中で身を捩った。翼を持たずとも身動きくらいは取れる道周は獣に向き合い、構えを崩して迎撃に入る。
『ふん!』
道周が空中で体勢を変えると、その隙を狙った魔王が節足を打ちだす。六本の脚を引き絞ると、それぞれが異なる軌道で槍のように飛び出した。
「見え透いた攻撃ダ。落ちたナ魔王!」
「うおぉぉぉ!」
魔王が打ち出した打撃はアドバンが、跳ねて牙を剥く巨獣は道周が相手取る。
アドバンは魔王の打撃に拳を突き出し、龍頭と変化した外套を駆使して迎撃を試みる。正面からの撃墜は不可能であっても、受け流し攻撃を逸らすことは道周たちの立ち回りにより実証済みである。アドバンもそれに倣い、魔王の節足を側面から受け流してやり過ごした。
アドバンに全幅の信頼を寄せた道周は、他に気を砕くことなく巨獣に注意を向ける。牙を剥く巨獣がいかに素早くとも、翼を持たないのはお互い様だ。直線でした襲い掛かれない相手に、道周は一閃を二度を放って縦横に切り裂いた。
「下が隙だらけだぞ!」
アドバンと道周が空中戦を仕掛けている間に、魔王の懐にジノが接近した。
『我が貴様を忘れるはずがなかろう!』
「何っ……!?」
魔王の巨躯から零れ落ちた流血が熱を帯びる。懐に立ち入った者に降り注ぐ高温の鮮血は色を変え、紫の炎と化して胎動する。
隙を突いたと確信していたジノに紫炎が降り注ぐ。さすがのジノとて紫炎に直撃すれば焼き尽くされてしまう。接近しすぎたことが仇となり、全身を繰って紫炎を払う。折角の好機を守りに回され、ジノは奥歯を噛み締めた。
『おぉぉぉ……!!』
ジノに降り注ぐ紫炎をお見舞いした魔王は呻き声を上げる。何事かと視線を集めると、切り落とされた脚から肉体が生えている。
「あれは……!?」
「肉体の再生? いいや、肉体を「創造」しているのか……?」
魔王は雄叫びとともに二本の脚を振り上げる。他の六肢は蜘蛛のような節のある脚のままであるが、その二肢は黒い刀身を持つ剣と化す。
「前の世界じゃ、あんなことしなかったぞ」
「まだ、進化しているのか……」
底の知れない魔王の力に、道周とジノもたまらず息を飲む。
『最終決戦なのだろう? ならば、出し惜しみをするな。全てを出し切らねば、我が終わらせてしまうぞ……』
荘厳な威を放つ魔王が邪悪な笑みを浮かべ、大剣と化した腕を振り上げた。叩き付けられた大剣は、空を裂いて大地を割る。




