表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
355/369

切り開く未来 1

 2人の剣士が道を切り開く。それぞれが掲げた剣に思いと怒りを込め、見上げる山脈の如き魔王に向かって突進する。


『この時を待っていた。来い、聖剣使いに魔剣使い!』


 歓喜に沸く魔王が怒号を上げる。魔王の中の感情にもはや怒りや憎しみはなく、長きに渡る願いを成就させる歓喜に満ちている。

 高揚した魔王は腕を振り上げる。全身全霊で剣士を相手取る魔王は、神速の打撃を繰り出す。


「ふっ!」


 先陣を切る道周が魔剣を繰り出した。魔王の超重量の節足を横から撃ち込む。正面から受け止めれば押し敗けてしまう攻撃も、力の方向を制御してしまえば受け流すことは容易い。道周は腰を入れた剣戟を側面から叩き付け、魔王の打撃を地面へと受け流した。


「いいぞミチチカ。次はオレの番だ!」


 道周とともに戦線を切り開くジノが吼えた。道周の奮戦に感化されたジノは一思いに聖剣を振り下ろす。その切っ先は地面に突き刺さった魔王の節足があり、聖剣の輝く刃が見事に切断した。

 魔王は八肢の一本を失った事実を、迸る痛みを以って実感する。苦悶の叫びを押し殺して堪え、残る七本の節足が空を切る。


『ぐぉぉぉおおお!』

「やっぱり地に脚が着いてると安定する」

「最初から地面に落としていればよかったんだ!」


 道周とジノの連携は止まらない。久方ぶりの共闘にも関わらず、2人は阿吽の呼吸で攻防の入れ替わりをする。

 魔王の打撃を道周が受け流し、ジノが受け止める。ついで魔王の間隙には2人で剣を振りかざし、地に落ちた魔王に肉薄する。

 魔王とて同じ攻防を繰り返すだけではない。打撃の隙間に紫炎を織り交ぜ波動を放つ。2人の背後や頭上など死角から繰り出す奇襲は陽動であり、本命は圧倒的な質量での一撃だ。


『ぬぁぁあああ!』


 魔王は節足だけでなく、太く逞しい蛇尾を振り下ろす。道周たちの速度を捉えることは困難であっても、手数で圧倒する。


「うぉぉぉ!」


 魔王の雨のような打撃をジノが相対する。両腕で一本の聖剣を振り回し、七本の節足を捌いてみせる。一撃一撃を撃ち落とすことは能わずとも、加えた力で僅かながらに軌道を逸らす。


「はっ――――!」


 ジノが防勢に回ると道周が特攻を仕掛ける。ジノが弾き落とした魔王の節足に脚をかけて登ると、一息の内に節足の上を駆け抜ける。魔王が振り払おうと暴れるが、魔剣を突き刺した道周はしぶとくしがみついた。


「この……、おおお!」


 道周は魔王の脚に突き刺した魔剣を気合いで振り抜いた。腰を入れて重心を下げ、そして弧を描いた魔剣の切っ先が空を切る。同時に魔王の脚は切断され、残る節足は六本となる。


『小癪な!』


 魔王は脚を切り落されようと止まらない。脚の一本くれてやる代償に、道周が空中に放り出される。。ガウロンに騎乗していない道周に飛翔する手立てはなく、魔王の振り出す尾を回避する術はない。


「出すぎダ馬鹿者。オレとの空中戦ヲ忘れたカ!?」


 魔王の尾の一振りに合わせ、疾風のように飛翔するアドバンが駆け抜ける。アドバンは迎撃などの余計な策を捨て、道周を拾い上げて後転することに一心を注いだ。

 結果、魔王の蛇尾の一振りを紙一重のところで回避した。


「すまない、助かったアドバン」


 道周はアドバンに摘まみ上げながら、視線を後方に向ける。先ほどまで道周が浮いていた箇所は魔王の尾がフルスイングされ、乱れた風が暴風となって身体を揺らす。


『逃がすものか……!』

「それはこっちの台詞だ。(わらわ)たちを忘れたとは言わせん!」


 魔王が飛ぶアドバンを道周に焦点を合わせたとき、視界外の下方から業火が迫った。黄金の炎が鎧となり、金翅鳥の形を持ったスカーが神速で肉薄する。目を見張るような速度と火力を乗せ、スカーの健脚が槍となって魔王の肉体に激突した。


『ぐぬっ…………』


 意識外からの蹴りに、さすがの魔王も狼狽えた。上躯を反っていただけに、腹部に食い込んだ蹴りにたまらずうずくまる。


「僕も忘れてもらって困る!」


 スカーの攻撃に合わせ、セーネが純白の翼を羽撃かせた。掲げた両腕の先の虚空から降り注ぐのは、無数の武具ではない。道周とジノが切り落とした、魔王本人の節足だった。

 セーネ自身の膂力では決して持ち上がらずとも、「物質転移(アポート)」の権能を用いれば関係なし。質量など無視して持ち上げ、その節足を魔王にお見舞いすることができる。


『がぁ……っ!』

「自分自身の脚なら、通じるだろう!」


 魔王の脚がうずくまる魔王の身体に圧し掛かる。猛攻に使用していた超重量の脚が、脅威となって己に降りかかる。何とも皮肉な意趣返しと重量のある攻撃に、魔王がセーネを睨み付けた。


『貴様らは邪魔だ……。疾く失せよ!』


 魔王は怨恨の視線を向けて怒号を上げる。圧し掛かった己の脚の切れ端を振り払うと、ジノによって切断された翼を広げる。大翼は魔王の巨体を飛翔させるには不十分ではあるが、暴風を巻き起こすだけの余力はある。さらに蠢く大翼は天へ向けて伸び上がると、五指を広げた巨掌となった。

 一対の翼は一対の巨大な拳へと変貌し、空を飛ぶスカーとセーネに向けて打ち込まれる。


「かっ……!」

「くっ……!」


 魔王による想定外の拳打にスカーとセーネの反応が遅れる。2人は回避ではなく防御に回り、身を固めて巨拳を受ける。

 彗星のように吹き飛んだ2人を、吹き荒ぶ風が拾い上げた。轟々と音を鳴らす風がセーネたちを包み込むと同時に、青雷を纏ったバルバボッサが前進した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ