切り開く未来 1
2人の剣士が道を切り開く。それぞれが掲げた剣に思いと怒りを込め、見上げる山脈の如き魔王に向かって突進する。
『この時を待っていた。来い、聖剣使いに魔剣使い!』
歓喜に沸く魔王が怒号を上げる。魔王の中の感情にもはや怒りや憎しみはなく、長きに渡る願いを成就させる歓喜に満ちている。
高揚した魔王は腕を振り上げる。全身全霊で剣士を相手取る魔王は、神速の打撃を繰り出す。
「ふっ!」
先陣を切る道周が魔剣を繰り出した。魔王の超重量の節足を横から撃ち込む。正面から受け止めれば押し敗けてしまう攻撃も、力の方向を制御してしまえば受け流すことは容易い。道周は腰を入れた剣戟を側面から叩き付け、魔王の打撃を地面へと受け流した。
「いいぞミチチカ。次はオレの番だ!」
道周とともに戦線を切り開くジノが吼えた。道周の奮戦に感化されたジノは一思いに聖剣を振り下ろす。その切っ先は地面に突き刺さった魔王の節足があり、聖剣の輝く刃が見事に切断した。
魔王は八肢の一本を失った事実を、迸る痛みを以って実感する。苦悶の叫びを押し殺して堪え、残る七本の節足が空を切る。
『ぐぉぉぉおおお!』
「やっぱり地に脚が着いてると安定する」
「最初から地面に落としていればよかったんだ!」
道周とジノの連携は止まらない。久方ぶりの共闘にも関わらず、2人は阿吽の呼吸で攻防の入れ替わりをする。
魔王の打撃を道周が受け流し、ジノが受け止める。ついで魔王の間隙には2人で剣を振りかざし、地に落ちた魔王に肉薄する。
魔王とて同じ攻防を繰り返すだけではない。打撃の隙間に紫炎を織り交ぜ波動を放つ。2人の背後や頭上など死角から繰り出す奇襲は陽動であり、本命は圧倒的な質量での一撃だ。
『ぬぁぁあああ!』
魔王は節足だけでなく、太く逞しい蛇尾を振り下ろす。道周たちの速度を捉えることは困難であっても、手数で圧倒する。
「うぉぉぉ!」
魔王の雨のような打撃をジノが相対する。両腕で一本の聖剣を振り回し、七本の節足を捌いてみせる。一撃一撃を撃ち落とすことは能わずとも、加えた力で僅かながらに軌道を逸らす。
「はっ――――!」
ジノが防勢に回ると道周が特攻を仕掛ける。ジノが弾き落とした魔王の節足に脚をかけて登ると、一息の内に節足の上を駆け抜ける。魔王が振り払おうと暴れるが、魔剣を突き刺した道周はしぶとくしがみついた。
「この……、おおお!」
道周は魔王の脚に突き刺した魔剣を気合いで振り抜いた。腰を入れて重心を下げ、そして弧を描いた魔剣の切っ先が空を切る。同時に魔王の脚は切断され、残る節足は六本となる。
『小癪な!』
魔王は脚を切り落されようと止まらない。脚の一本くれてやる代償に、道周が空中に放り出される。。ガウロンに騎乗していない道周に飛翔する手立てはなく、魔王の振り出す尾を回避する術はない。
「出すぎダ馬鹿者。オレとの空中戦ヲ忘れたカ!?」
魔王の尾の一振りに合わせ、疾風のように飛翔するアドバンが駆け抜ける。アドバンは迎撃などの余計な策を捨て、道周を拾い上げて後転することに一心を注いだ。
結果、魔王の蛇尾の一振りを紙一重のところで回避した。
「すまない、助かったアドバン」
道周はアドバンに摘まみ上げながら、視線を後方に向ける。先ほどまで道周が浮いていた箇所は魔王の尾がフルスイングされ、乱れた風が暴風となって身体を揺らす。
『逃がすものか……!』
「それはこっちの台詞だ。妾たちを忘れたとは言わせん!」
魔王が飛ぶアドバンを道周に焦点を合わせたとき、視界外の下方から業火が迫った。黄金の炎が鎧となり、金翅鳥の形を持ったスカーが神速で肉薄する。目を見張るような速度と火力を乗せ、スカーの健脚が槍となって魔王の肉体に激突した。
『ぐぬっ…………』
意識外からの蹴りに、さすがの魔王も狼狽えた。上躯を反っていただけに、腹部に食い込んだ蹴りにたまらずうずくまる。
「僕も忘れてもらって困る!」
スカーの攻撃に合わせ、セーネが純白の翼を羽撃かせた。掲げた両腕の先の虚空から降り注ぐのは、無数の武具ではない。道周とジノが切り落とした、魔王本人の節足だった。
セーネ自身の膂力では決して持ち上がらずとも、「物質転移」の権能を用いれば関係なし。質量など無視して持ち上げ、その節足を魔王にお見舞いすることができる。
『がぁ……っ!』
「自分自身の脚なら、通じるだろう!」
魔王の脚がうずくまる魔王の身体に圧し掛かる。猛攻に使用していた超重量の脚が、脅威となって己に降りかかる。何とも皮肉な意趣返しと重量のある攻撃に、魔王がセーネを睨み付けた。
『貴様らは邪魔だ……。疾く失せよ!』
魔王は怨恨の視線を向けて怒号を上げる。圧し掛かった己の脚の切れ端を振り払うと、ジノによって切断された翼を広げる。大翼は魔王の巨体を飛翔させるには不十分ではあるが、暴風を巻き起こすだけの余力はある。さらに蠢く大翼は天へ向けて伸び上がると、五指を広げた巨掌となった。
一対の翼は一対の巨大な拳へと変貌し、空を飛ぶスカーとセーネに向けて打ち込まれる。
「かっ……!」
「くっ……!」
魔王による想定外の拳打にスカーとセーネの反応が遅れる。2人は回避ではなく防御に回り、身を固めて巨拳を受ける。
彗星のように吹き飛んだ2人を、吹き荒ぶ風が拾い上げた。轟々と音を鳴らす風がセーネたちを包み込むと同時に、青雷を纏ったバルバボッサが前進した。




