繋ぐ 2
遂に戦場の夜が明ける。アドバンが敷いた「常夜結界」が解除された。すなわち、夜王の意識が途絶えた証拠である。アドバンを滅ぼす陽光が爛々と差し込み、荒漠とする激闘の痕が照らされる。
「まだこんな力が残っているのかよ……!」
『無論だ。我は魔王である。貴様ら程度に敗北することは有り得ん』
嘲笑を浮かべるアドバンは脚を広げ、巨躯の中心に力を溜め込む。交差する八肢の中央では光が歪み、漆黒の球が創出される。
「まさか……。また来るのか……?」
その球が、ドラグノートが身を呈して防いだ凝縮されたブラックホールなのだと気付くのに時間はかからなかった。
「くそ……。連発できるのかよ……!」
背に腹は変えられないと道周は魔剣を掲げた。枷を外した魔性が光を放つ。ドラグノートが命と身を捧げた攻撃は、何としてでも迎撃しなければならない。
誇りと受け継いだ意志をかけて道周が魔剣を振り上げるとき、魔王が邪悪な笑みを溢した。
『魔剣使い、貴様に選択の時を与えよう』
魔王は八肢でブラックホールを生成する傍ら、巨躯に纏った紫炎を天へ放つ。驟雨のように降り注ぐ紫炎が夜空を照らす。そして魔王の蛇尾が地面を突き刺し、紫の波動が噴出する。湖の水を吹き上げ、飛沫が紫炎に触れ霞と消える。
魔王のブラックホールが正面から、そして紫炎の雨と紫の波動が上下を挟み込む。三方向から迫る禍々しい神秘が猛威を奮う。道周を襲う魔王の連撃を、全て防ぐ手立てはなかった。
『さぁ、貴様の魔剣で防いでみせよ。
……そのときは、他の攻撃が貴様を滅ぼすが』
魔王は道周が孤立した瞬間を的確に狙った。ブラックホールをチラつかせれば、道周は確実に仲間を庇って前線に出てくる。道周の性質を見抜き、怨嗟を磨き上げてきた魔王の会心の攻撃であった。
『魔剣使い、貴様の選択を見せてみろ。さぁ、さぁさぁさぁさぁ!』
魔王は雄々しく煽り立てる。道周の苦渋の表情に昂る魔王は、順調にブラックホールの生成を進める。
進むも退くも敗北必至の選択は、魔王がこしらえた究極の「詰み」である。
(ならば、せめてブラックホールだけでも相殺する……!)
道周の選択は早かった。その身を紫炎に焼かれようと、波動に散らされようと、背後に庇う仲間を危険に晒すことは決してしない。その身が果てようと、己と魔剣の責を全うするのみである。
「魔性開放……。魔王、せめてお前の腕をもらっていくぞ! 頼めるか、ガウロン?」
「無論だ。ドラグノートの勇姿を見て、我も昂っていたところだ!」
阿吽の呼吸で道周とガウロンが前進した。身に降りかかる紫炎も波動にも気にかけず、振り上げた魔剣に全てを託す。
「――――おいおい、いつから1人で戦っているんだ?
ミチチカ、お前には仲間がいる。
そう、俺がいる……!」
どこからともなく降り注ぐ声は自信に満ちていた。道周を「ミチチカ」と気軽に呼称し、その魔剣に懐かしさを覚える青年は、夜空を切り裂く剣を振り降ろす。
湖上の空、繋がれた扉が青年を呼び起こす。赤髪の青年が振り上げる剣は眩い光が溢れ、魔王の身を切り裂く。魔王を殺し滅ぼした剣の輝きは、聖なる刃の剣である――――。




