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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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ぶつかり合う魂 4

「マリー! ここは一旦下がってください!」

『逃すか!』


 ミチーナに跨ったソフィがマリーに手を伸ばす。マリーはユゥスティアを自律飛行モードに切り替え、ソフィの手を咄嗟に掴んだ。

 しかし魔王の魔の手はすぐに回り、周囲を包囲する八肢が振り降ろされた。


「っ!」


 魔王の圧倒的な質量の攻撃に対し、ソフィが放ったのは煙幕であった。白い霞が一帯を覆い隠し、煙幕が放つ異臭が魔王の嗅覚を攪乱する。

 感覚で狙い撃つしたなくなった魔王は出鱈目な攻撃を放つ。激しく打ち出される節足の数々がマリーたちを脅かすが、直撃することはない。


『ふん!』


 痺れを切らした魔王が翼を撃った。大翼が巻き起こす乱気流が煙幕を振り払うが、真っ向から吹き荒ぶ暴風が魔王に襲い掛かる。霧散したはずの煙幕が再び収束し、魔王の頭に覆いかぶさった。


「風を操る勝負で負けてられるか!」


 暴風を繰り出したバルバボッサが息巻いた。雷霆の権能ばかりを使用していたバルバボッサだが、十全に権能を発揮してどこか満足気に鼻を鳴らす。

 一方で顔に煙幕がまとわりついた魔王は身をよじる。四方八方に八肢を繰り出し、手あたり次第に攻撃を仕掛けるも、その全ては空転し虚しく空を揺らすだけであった。


「破ぁアアアaaa!」


 暴れ回る魔王に対し、鬼化したドラグノートが双角を奮った。ドラグノートが放つのは絶対零度の光線であり、威力も範囲も格段に拡大した光線が魔王の八肢を凍結する。


「むぅウウウ!」


 魔王の節足が凍結した刹那、雄叫びを上げるアドバンが舞った。紅蓮に侵食される腕を出鱈目に振り回し、跳ね上がった翼の出力にものを言わせる。凍結した魔王の八肢を瞬く間に粉砕して、魔王の暴走をあしらった。


『邪魔だぁぁぁ!』


 痺れを切らした魔王が咆哮を上げた。上躯を仰け反らせて天を仰ぎ、一息で破損した八肢を再生した。ドラグノートとアドバンの連携の痕もなく、魔王の腕が満足する。


『ぉぉぉおおおお!』


 魔王は八肢を十全に再生させると、顔面にまとわりついた煙幕を払うでもなく雄々しく吼える。そして八肢と大翼を広げた。蛇尾を大地に突き立て軸とすると、巨躯を独楽のように回転させる。


「くぅぅぅ!」

「がっ……!」

「わぁぁぁ!」


 周囲の環境を巻き上げる回転に、接近していた道周やマリーたちが悲鳴を上げた。空を駆けるガウロンやミチーナは必死に堪え、何とか魔王から距離を取る。

 回転する魔王の足元の大地が捲り上がる。立ち上がる旋風に土塊が天へ昇り、湖の水面が渦を巻く。


「大事ないか?」

「我らは問題ない。そうだなミチチカ?」

「お、おう……。酔いそうだったけど、何とか耐えた……」


 辛うじて魔王から距離を取った道周は口元を押さえていた。バルバボッサたちと横並びで魔王を睨み、仕切り直した戦場に気を引き締める。


「妾たちの攻撃が通じておる。攻撃の択が増えただけでこうも崩せるとは」

「だが、アドバンたちも限界が近い。時間をかけてられないぞ」


 魔王によって仕切り直された時間で、道周たちは状況を把握した。スカーが言うように魔女同盟に優勢が傾いているが、この優勢が長く持つとは思えない。

 魔王には無限に再生する能力がある。悠長に攻め続ける余裕はなく、早急な決着が望まれる。


(こうなると、本格的に「魔性開放」のタイミングを計らないとな……)


 道周は手元の魔剣に視線を落とした。奥の手を切る算段をしながら、魔剣の異能を放つことも考慮する。


「何だ、あれは……?」


 そのとき、バルバボッサの戸惑った声が耳に入る。

 道周は視線を上げ、バルバボッサが目の当たりにした異能を目撃する。


「あれは……!?」


 道周が目にしたのは、八肢を交わして力を溜め込む魔王の姿であった。その胴の正面、八肢が交差する点には、光すら飲み込む漆黒の球が浮かんでいる。その大きさたるや、すでに人一人を優に飲み込むほどにまで膨張している。

 道周はこの攻撃を知っている。魔王が有する最大の攻撃の正体を経験している。

 当たれば必死の漆黒の球が、星が爆ぜる瞬間に生まれる超重力の一撃である。


「逃げろ――――!」


 焦燥に駆られた道周が叫ぶと同時に、必殺の一撃が完成した。魔王は超重力の球の形成と同時に、巨躯を振って砲撃を撃ち出した。

 道周は反射的に魔剣を抜剣し、その神秘の枷を放つ。

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