龍鬼交わる 2
純血の吸血鬼であるアドバンが、純血のドラゴンであるドラグノートを吸血する。それがどんな意味を持つかは、この世界に生きる者であれば一大事である。
アドバンによる吸血は、相手を眷属とすると同時に吸血鬼の権能を与えるものである。代償は日の元に身を晒せぬという制約と、己の内を巡る血を鬼の血で穢すということである。
ドラグノートは自ら純血のドラゴンの血を穢すことを選択した。誇りと生をかなぐり捨て、魔王に挑む力を求めた。その覚悟は形容することなど到底できるはずがない。
そして同時に、アドバンが背負うリスクも甚大ではなかった。吸血で取り込むドラグノートの血が強すぎる。混血の血であればアドバンは克服できたであろうが、純血のドラゴンとなれば話が変わる。アドバンの血に交わる血脈は、燃えるような熱さでアドバンを侵食する。
鬼化したドラグノートは夜の権能を発揮する、「常夜結界」に元で混み上がる力は、吸血鬼と同様かそれ以上のものである。
同時にアドバンの内側を駆け巡るドラゴンの血は、身を焦がし生命を削りながらも尋常ならざる力を与えていた。
「ぐ……、がぁぁぁ……。
さっさと、決着ヲ着けるゾ……!」
「がaaa……。そう、長くは持ちそうにないぞ」
アドバンとドラグノートは呻きながらも理性を保つ。内側でせめぎ合う血流の雄叫びに耐えながら、魔王に対峙する。
「すまない。おれたちが不甲斐ないばかりに」
アドバンとドラグノートの決意に感化され、バルバボッサとスカーが頭を垂れる。無力を嘆きながらも拳は納めず、横に立ち並んで最後まで戦線を共にする覚悟を見せる。
『ぐぅぅぅ……。どこまでも抵抗をしおって……。必ず、粉微塵に砕いて消し炭にしてやろう……!』
魔王は怒気を滲ませ熱を纏う。紫炎を身に纏い、雄々しい覇気を放つ。眼下に見下ろす敵に荘厳な息吹を浴びせ、必殺の決意を固める。
「そうやって奪い、滅ぼした者の悲鳴など覚えてもいないのでしょう。そんなあなたに決別を。そして……」
「私たちが終わらせる!」
威を放つ魔王に向かって可憐で勇猛な声が降りかかる。夜の結界を越えて飛来するのは純白の幻馬と、両手に武具を構えた魔女だった。
ソフィを乗せたミチーナが嘶く。マリーが掲げた魔杖には煌々と燃える炎が浮かび、挨拶代わりの流弾が撃ち降ろされた。
無論、魔王に対して火炎など通じない。派手な爆発が巨体を包み込み黒煙が立ち上る。
黒煙が晴れたとき、魔王の瞳は怒りの業火が盛っていた。
『これで全員か? 我に殺されたい愚者共は……っ!?』
魔王の雄叫びが木霊する。森林が震撼し、大地が捲り上がる。
魔女同盟は全戦力を投入して、魔王との最終決戦に幕を引く。




