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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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そして友になる

 ソフィの魂の叫びが大空洞に木霊した。ようやくソフィが漏らした本心に、誰も言葉を返すを持たずに静寂が漂う。


「あぁぁぁ……!」


 本心を吐露しても魔王に差し出した魂は容易くは開放されない。縛り続けられた70年という時間は余りにも長すぎた。心を乱したソフィは短剣を構えて突進を仕掛ける。


「この分からず屋が……!」


 ソフィの本心を暴いたリュージーンだったが、ソフィの往生際の悪さは想定外だった。まさか本心を叫んだソフィが自暴自棄になるとは思いもよらず、ソフィの突進に向かって鉄剣を向ける。

 だが、抵抗を見せるリュージーンをマリーが制止する。


「おいマリー。何をしている!?」

「大丈夫。リュージーンは下がって」


 マリーの静謐な瞳はソフィを見据えていた。マリーはソフィに対して恐怖などは微塵も感じていない。見据えた瞳には、覚悟のような色さえ垣間見える。

 リュージーンはその覚悟を信頼し、ソフィの突進をマリーに託した。

 マリーは両手を広げて立ち塞がる。マリーの右手にはユゥスティア、左手には魔杖が握られており、ソフィの突進を受け止める用意は万全であった。


「ソフィ!」

「マリー!」


 2人は互いの名を叫ぶ。異世界を共に歩んできた友が、本心を曝け出してぶつかる。


 次の瞬間、マリーは両手に持った武具を放り捨てる。空手を大きく広げて、短剣の刃ごとソフィを抱き締めた。


「「っ――――!?」」


 マリーに託したリュージーンも、見守っていたミチーナも驚嘆して言葉を失う。

 マリーは腹部に短剣を突き立てられる。勢いよく鮮血が飛び散り、返り血がソフィの銀髪を赤く染め上げる。


「な、何をしているんですか……?」


 最も不意を突かれ驚いたのはソフィ本人だった。マリーの胴に刺さった短剣からは鮮血が滝のように流れ落ちる。咄嗟に離れようとするも、マリーは両手でソフィは包み込んだ。

 マリーの抱擁に言葉はない。ただ無言でソフィの身体を抱き留め頬を寄せた。力強く優しく、無言でソフィを包み込む。


「マリー! あなたは一体何をして……」

「大丈夫。私は大丈夫だから……」


 マリーは言葉少なに抱き締める。腹の傷に表情を歪め、汗を流しながらも、一度決めたことは決して曲げない。


「どうして私に攻撃をしないのですか……。私は、あなたに殺されても仕方がないような裏切りをしたのに」

「もちろん、残念だったし悔しかったし怒りも沸いた。けど、考えてみたら「その程度」だったんだよね」

「「その程度」……? マリーを、セーネを騙していた私を、「その程度」だと言うのですか?」


 ソフィはマリーの胸の中でキョトンとした。その手はすでに短剣から離れており、マリーに身を預けていた。

 マリーは泣いた子供をあやすように、穏やかな声で語り掛ける。


「私がこの世界に来て初めて会ったのがソフィだった。それから、色んな旅を一緒に乗り越えて来て、私は友達になったと思っていた。けど、ソフィは違ったんだもんね」

「……」


 マリーの言葉にソフィは押し黙ってしまう。手厳しい言葉の数々はソフィを責めるようにも聞こえ、返す言葉もない。


「だから、もう一度友達になる。そのために、私はソフィを受け入れるよ。何度でも喧嘩して、何度でも仲直りする。何度でも戻ってきたくなるような居場所になるから。この手は離さない」


 マリーの覚悟は変わらない。例え腹を割く短剣が鋭くとも、流れる血に身体が寒気を感じても、抱き留めたソフィを逃しはしない。


「私は、マリーを傷付けました。マリーだけじゃなく、セーネもミチチカたち皆を」

「だから、ちゃんと皆と仲直りしないといけないの。怖いなら、私が一緒にいるから。ソフィの居場所は、ここだよ」


 流血しすぎたマリーは意識が白んでいた。だが、紡ぐ言葉の一つずつは力強く、混乱したソフィの心は凪を取り戻した。

 迷いを断ち切り、願いを得たソフィソフィは手を伸ばす。マリーの背に手を回して、覚束ないマリーを抱き寄せて身体を支える。

 マリーの言葉を受け、ソフィは歓喜と充足感が満ち溢れた。くすぐったいような思いが溢れ、今度は

悦びの涙が零れ落ちた。


「ありがとう、ございます……。私を、助けてください……。私と、友達になってください……」

「もちろん。全部、任されたよ!」


 魔王城の地下での戦いが終わった。誰も失うことのない戦果は大きく、マリーの負傷は魔法で応急処置がなされた。

 再び友達となった2人は、あの日のように朗らかな笑顔を交わした。


 そのとき、大地を揺らす衝撃が迸った。魔王と領主たちの戦いが一層激化している証拠であり、地響きは地下深くの空間を大きく揺らした。

 そして、魔王城の城郭が地下空洞に降り落ちた。

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