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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
330/369

最後の一角

「リュージーン――――!」


 マリーの絶叫は魔王城の地下深くの空洞へ吸い込まれた。深淵にも見える深い闇の空洞に声が木霊するが、一切の返答はない。

 マリーを庇うように落下していったリュージーンの顔は忘れない。あの顔には確かな確信と、マリーに何かを訴えかけているような意志が感じられた。

 マリーは誰もの返答もない魔王城の中で逡巡した。マリーには自分がとるべき行動を取るべきなのかは分からない。

 これから先の行動はリュージーンと打ち合わせをした「作戦」には含まれておらず、完全なイレギュラーの連続であった。


「こうなったら私も行くしか……」


 マリーは大空洞の淵に脚をかける。マリー自身は飛行手段を有している。この深淵に乗り込んで帰還するくらいなら容易である。


「よし……!」


 マリーは腹を括る。底の見えない闇に飛び込む恐怖はあれど、その先にはリュージーンとソフィがいるのだ。それが分かっているのなら、飛び込む価値は十分にあった。


「おや、行ってしまうのかい?」

「っ!?」


 飛び込むマリーを呼び止める声があった。その声はソフィが下りてきた螺旋階段の上から降りかかり、一歩ずつを踏み締めて降りて来る。


「折角仲間が貴女を残して行ったというのに、どうして同じ轍を踏んでしまうの?」

「あなたは誰? 魔王軍の人、だよね?」


 マリーは空洞の淵から脚を離した。両脚で残る足場を踏み締める。ユゥスティアを両手で構え、白刃を声の主へ差し向ける。


「私の名は……。私の名は何でしたっけ?

 名前などと久しく呼ばれていないので忘れてしまったわ。けれど、こう呼ばれていたわ。「祭司長」と」

「あなたが「祭司長」……。魔王軍の幹部……!」


 マリーは一層の力と魔法を展開して対峙する。自らを「祭司長」と名乗った女性に敵意を向ける。

 対する祭司長はえんじ色のローブをはためかせた。小さな両手でフードを外すと、深緑の長髪が靡いた。その表情はマリーに一切の敵意を持たず、糸目の瞳を穏やかに吊り上げて微笑んでいるようにも見える。


「戦闘を引き起こすつもりはない。ただ、あのハーフエルフを追う貴女と話がしたいの」


 そう言った祭司長は目線を外へやった。魔王城の外へ誘うような動作にマリーはたじろぐ。魔王軍の幹部である。それも魔王軍序列第2位の幹部となれば、その行動の一挙手一投足は注視しなければならない。


「わかった。ここが私の戦場というのなら、私は行くよ」


 マリーは祭司長の誘いに乗ることにした。リュージーンがこの場にマリーを残した意味を考え、祭司長の思惑を類推する。マリーの経験不足の観察眼では読み切れないのならば、自分の脚で踏み込むしかない。

 マリーは祭司長に先導され、魔王城の中庭に出た。

 そこは四方を高い石壁に囲まれた、木々が鬱蒼と生い茂る森であった。まるで森をそのまま移植したような設計の中庭に、マリーは一抹の不安を感じる。

 祭司長は中庭に吹き抜ける風に立ち止まり髪を揺らすとマリーに振り向いた。その糸目を見開くが、その瞳に光は宿っていなかった。


「さて、どこから話をしましょうか……――――」


 祭司長はポツリポツリと言葉を紡ぐ。

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