世界を超える憎悪 2
「――――手間をかけさせる!」
ガウロンに迫った紫炎の弾丸は、介入した黒い風が叩き返した。闇夜に紛れて高速を発揮したアドバンが、小言をぼやきながら撃墜したのだ。
「我らもいる。忘れてもらってわ困る!」
ドラグノートが魔王に目掛けて苛烈な熱戦を放った。同時にバルバボッサは青雷を、スカーは業火で象った金翅鳥を飛翔させて爆撃を仕掛けた。
『邪魔だ! 貴様らに用はない!』
魔王は領主たちの攻撃を全身を使って防御する。大樹のような尾で業火を叩き落とし、節足で雷霆を受け止める。大翼を焦がしながらも熱線を防いで怒号を叫んだ。
魔王を傷付けた領主たちの猛攻だが、結果としては僅かに足止めをしたに過ぎない。大陸級の質量を持つ身体に傷は付けれても、傷付いた側から再生する異能が魔王の存在感を表していた。
それでも、たった一つの傷だけは再生しない。その傷こそ、道周の魔剣が与えた斬撃であった。
「どうした魔王。早く異能で再生してみろよ。できるものならな」
『ぬ……。やはり我の前に立ちはだかるのは「魔剣使い」であったか……』
ガウロンの背で体勢を整えた道周は勝ち誇る。たった一撃、たった一筋の斬撃だが、打倒魔王に向けて確かな前進をしたのだ。
「アドバン、バルバボッサ、スカー。それにドラグノート。この魔王は俺が前の異世界転生で倒した敵だ。あのときは力強い仲間がいたが、俺1人では倒せないだろう。
だからこそ、皆の力を貸してくれ!」
道周は隣に並ぶアドバンたち領主に言葉を投げ掛ける。決して振り返ることはしないが、声音から真剣さが伝わった。
「断る理由はないわ。頼まれなくとも、魔王を倒すという契約であるからな!」
「そうだぞ坊主。おれたちを頼ってくれなければ困るわ!」
「ミチチカの因縁は妾たちとて理解した。その上で、これは妾たちで背負うものだ。ミチチカ1人で戦わせなどしない」
「そのために少年やマリーたちは大陸を旅したのであろう。苦難を乗り越え、我らに手を差し伸べさせた。その道程の全てが結実する時が今である。胸を張れ」
道周の言葉に領主たちが思いを一つにした。最終決戦に相応しい顔ぶれが並ぶ。邪神の時分から進化した魔王を相手に出し惜しみはしない。それでも足りないのであれば、足りるまで戦うまでだ。
「行くぞ――――!」
「ふん!」
「あぁ!」
「よし!」
「応!」
道周の号令が皮切りとなる。巨躯を誇り異能を操る魔王を相手に、フロンティア大陸の守護者たちが立ち向かう。




