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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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三重協奏 2

 スカーのピンチに真逆の声がかかる。一つは焦ったバルバボッサの助言であり、もう一つは地上の砂埃から飛び出ていた。

 相対する二つの助言。スカーは選択したのは後者であった。


「差し違えてでも焼いてやろう!」


 スカーは纏った金翅鳥の炎を炎上させた。魔王の腕が振り下ろされ頭蓋を砕くその瞬間まで、最大火力を最高出力で放つ覚悟を決めていた。

 だが、実際に魔王の鉄槌がスカーに振り下ろされることはない。

 スカーは不可思議な現状に疑問符を浮かべるも、目にした光景に合点がいく。

 攻勢に出ていた魔王の四肢には黒い帯がまとわりつきいていた。数本の帯は地上から伸び、魔王の身体を拘束する。いくら超重量を誇る魔王とて、動きに勢いを付けられなければ拘束の突破は困難であった。


「ぐ……、夜王か……!」

「如何にも……。またしてもオレに不覚を取ったな」


 地上のアドバンは足元の影法師と変幻自在の外套を操っていた。地表に蠢く影法師は立体に飛び出して空へ伸びる。同時に外套も伸縮して空へと伸びる。柔なる外套の搦め手は単純な力で破るのは困難であり、刃と化した影は魔王の身に牙を突き立て動きを封じた。

 不意を突いた夜王の拘束に魔王の動きが止まる。僅かばかりの時間であれど、動きを止めるということの重要性を理解できぬ領主たちではない。


「この好機逃しはせん。このまま焼き尽くすまで!」

「応! おれも退かんぞ!」


 夜王が魔王を拘束し、太陽神と獣帝が一気に攻撃を仕掛ける。太陽神の黄金の炎が魔王を焦がす。獣帝の繰り出す雷霆が魔王を包み込み、肉を引き裂き骨身を灼く。

 この好機を見極めるのは夜王も同じである。魔王の身体に突き立てた影の刃を、さらに深くまで食い込ませる。

 領主たちはたった数秒の一斉攻撃に全身全霊を込める。これで倒せずとも、深手を負わせることができねば勝機は閉ざされる。


「このまま切り裂け、ぬのか……。頑強なやつめ……」

「これでもまだ倒れんのか……」

「あと少し。あと一撃があれば……」


 攻め立てる領主たちは口惜しく唇を噛み締める。手応えは確かにあるものの、魔王が倒れるというイメージが浮かばない。魔王に膝を着かせ撃墜するためには、あと一手押しが足りないと自覚していた。


「ふん……。我は貴様らを図り違えていたようだ。死に際の虫ほど喧しく鬱陶しいものはない。故に躊躇いはしないぞ……!」


 魔王はまとわりつく影と外套の拘束を破らんと力む。全身の筋力で拘束に抗い、ミチミチと拘束が軋む音が鳴り響く。


「く……。もう保てないか……!」


 拘束をするアドバンが奥歯を噛み締める。影法師と外套伝いに感じる魔王の力に慄き、これ以上の拘束はできないと悟る。

 一世一代にて最後ともいえる攻勢も虚しく果てる。3人がかりで掴めない勝利に、心が折れうになった。

 そのとき、空を見上げるアドバンの視界に紅蓮が迸る。バルバボッサの暴風を切り裂いた巨躯は翼を広げ、紅蓮の双角に高熱を湛えて一筋の息吹として放出する。


「「「っ!?」」」


 想定外の助力に領主たちは目を剥いた。3人が足りないと感じていた一手を埋める一筋の息吹は魔王に襲い掛かる。

 そして遂に、空に立つ魔王が撃墜された。


「お初にお目にかかる。我が名はドラグノート。西の領域チョウランの領主、地龍ロン・イーウーに変わる領主なり。この戦い、我も助力しよう!」


 雄叫びとともに名乗りを上げたドラグノートは、紅蓮の体躯を持ち上げた。地上に落とした魔王を見下ろし、バルバボッサたちと肩を並べた。


「何だ新顔か。脚を引っ張るなよ」


 ドラグノートの参戦に合わせ、アドバンも空中へ飛翔する。

 夜王と獣帝、太陽神と純血のドラゴン。遂に四大領主が一堂に会し、魔王との決戦に臨む。

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