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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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交差する因果

 獣帝バルバボッサ・バイセは怒涛の進軍をしていた。バルバボッサ単身での進軍だが、圧倒的な権能で猛威を奮っていた。


「魔王軍も大したことはないな! このまま本丸まで進ませてもらうぞ!」


 バルバボッサは2メートルに及ぶ巨躯で飛行していた。嵐を巻き起こし、その嵐で巨体を持ち上げる。自在に操作できる風に乗って上空を駆け回り、眼下の敵軍に雷を落とす。単純明快で強引な業ではあるが、それゆえに攻略は難しく有象無象では敵わない。

 調子よく突き進むバルバボッサは、テンバーとの戦いに残してきた道周に思いを馳せる。だが「ミチチカなら大丈夫だ」と気持ちを切り替え、引き返して行ったガウロンとともに駆け付けてくれると信じていた。


「おれは、敵の総大将を引き受けるとするか!」


 大きな声で独り言を漏らしたバルバボッサは、掌で頬を打って気合いを入れ直す。

 それもそのはず、空を駆け雷雲を引き連れるバルバボッサの目前には、荘厳な雰囲気を醸し出す魔王城が聳え立っている。

 だがバルバボッサが雰囲気程度に後れを取るはずがない。むしろ燃え上がり対抗心を燃やしたバルバボッサは、遠方にそびえる魔王城へ向けて先制攻撃を仕掛けた。


「まずは挨拶だ!」


 そう言って獣帝の巨腕が振り下ろされた。嵐の乗る大男の腕が空を切ると、その軌跡に従い落雷が一閃する。


 ――――GoooRooo!!


 それはまるで巨竜の轟きのよう。鼓膜を切り裂くような轟音の後、青い衝撃が駆け抜け空が爆破する。それが青雷と気が付いたときには、すでに焼き焦がされた後である。

 バルバボッサの派手な挨拶は厳かな魔王城の天守を焼き払い、尖塔を瓦解させるには十分すぎた。


「「「BuuurrrBleeee!!」」」

「「「OOoooOOOaaaAAA!!」」」


 バルバボッサの攻撃に反応を示したのは、魔王城の対空を守護する怪物たちだった。

 有翼で異形の怪物ジャバウォックは、圧倒的な力量を見せ付けたバルバボッサにも勇ましく牙を剥く。怪しい鱗を光らせ大樹のような腕を振り上げ、本能のままに敵対する相手へ突撃する。

 そんな知性も理性もない怪物の後ろを追随するのは、これまた翼を持つ猛獣であった。それらは「怪物」と呼ぶには理知的であり、幻獣と呼ぶには野蛮である。故に猛獣と評された種族の名称は「翼竜」である。

 翼竜は高い知性も持たず、本能のままに恐れ襲う獣畜生だ。故に魔王に首輪を付けられて以来、魔王城の空を気張って警護をしている番犬代わりであった。


「「「OoooAAAArrr!!」」」


 立派な下肢と皮膜で覆われた腕を十全に発揮し、翼竜は大空を翔る。ジャバウォックの後に追い縋り、強敵であると認識するバルバボッサに食って掛かった。オオカミのような牙を剥き出しにして、怖くとも立ち向かうのだが、


「番犬ども。もっと強いのを出せい!」


 バルバボッサの権能は有象無象の反撃を受け付けない。獣帝が一度腕を振るい鼻を鳴らすと、呼応した雷と暴風が猛威を奮う。すると反撃に出る怪物も猛獣も悉くを蹴散らした。

 弾き返されたジャバウォックと翼竜は、勢いをそのままに魔王城の城壁に叩き付けられる。悲鳴を上げる間もなく襲い掛かる天変地異の連発に、翼竜は完全に戦意を喪失した。


「「「Buuurrrbleee――――!」」」


 しかしジャバウォックは手折られない。バルバボッサがどれほど強力な敵であろうと、恐れる心を持たない無窮の怪物は再起する。


「眠れ、怪物の奥の命よ!」


 だからこそバルバボッサはとどめを刺す。立ち込める暗雲を繰って帯電すると、一息で放電をしてジャバウォックを焼き払った。

 魔王城の城壁ごと打ち払う落雷が怪物を焼却する。意志を持たないジャバウォックたちは、肉体の死を以ってこの戦闘から解法された。


「……そこにいるな?」


 と同時に、バルバボッサは次なる相手の存在を察知していた。

 敵の本丸に向けて、何度も派手な攻撃を繰り返したのだ。動き出さない方が無理があるだろう。


 ()が――――?


 その答えは単純明快である。

 魔王城なのだから、()が黙ってはいない。


(――――……来るっ!?)


 バルバボッサは本能で感じ取った。それは視認したわけではない。確証があったわけでもない。獣帝としての本能と、取り戻した戦いの勘が全力で警告を鳴らしたのだ。

 全身の鳥肌を総毛立たせたバルバボッサが取った行動は、防御の構えであった。2メートルにも及ぶ巨躯の男が全身を弛緩させる。腕を胸の前で交差させ急所を庇う。一瞬の隙もなく油断もない行動を、敵は一蹴する。


「――――っ!?」


 バルバボッサが気が付いたときは、その巨体は彗星のように落下していた。遅れて迸る打撃痛が腕から全身に回り、ようやく攻撃されていたことに気が付く。

 撃墜されたバルバボッサが大地に激突する。慣性のままに大地を削って砂埃を上げた巨漢は、健脚で勢いを踏み留まると、牛角を振り上げて上空に睨みを効かせる。

 そこでは1人の男が天に立っていた。


「図が高いぞ。獣人畜生が――――」


 バルバボッサを見下ろした魔王が静謐な声を溢した。

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