表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
312/369

雌雄決する 1

 竜人によって編成された特務部隊とは、竜人の祖先が敗北したことをきっかけに魔王軍に組み込まれた。先々代々より連綿と受け継がれる忠誠とは、魔王により捻じ伏せられた歴史によって成立していた。

 すなわち、テンバーの世代はすでに生まれながらにして魔王軍だったのだ。生まれながらにして魔王に首輪を付けられ、それを疑うことなく生きてきた。

 だからこそ魔王の理念に違和感を覚えることなく、魔王にとって都合のいい戦士に成長する。

 しかし、テンバーの竜人としての誇りは死んでいなかった。竜人としての魂が、戦士としての本能が求める声を無視することはできなかった。

 生まれながらにして支配者である魔王でも、テンバーの魂に首輪を嵌めることはできなかった。

 テンバーは強者との戦いに血が沸騰し、殺し合いの果てに誇りを掲げる一人前の戦士となる。本来の竜人が持つべき、「強きを挫き弱きを守る」という誇りが姿をチラつかせる。


 そんな忠誠と本能の狭間で、テンバーは彷徨っているのだ。


 だからこそ道周はテンバーの在り方そのものに歪さを感じた。テンバーが掲げる正義に強い矛盾を感じた。

 同時に、テンバー本人が無自覚の内に抱えている闇を解決する方法も知っていた。


「はぁぁぁ!」

「ふん!」


 道周とテンバーは正面から衝突した。白銀の魔剣と、漆黒の黒剣が火花を散らす。

 その強度も鋭さも同等である。そして剣を使う者の技量も互角であるため、この勝負は膠着状態に陥っていた。

 ならば勝負を別けるのは剣術以外の要素である。

 翼を持つテンバーはその優位を遺憾なく発揮する。地上での斬り合いから飛翔して離脱すると、天高くから急降下して急襲を仕掛ける。

 彗星の如き破壊の剣閃を、道周は受け止めるではなく回避した。道周は冷静に受けるべき攻撃と避けるべき攻撃を見極めている。そして地に足を着けたテンバーに向けて突貫を仕掛ける。

 テンバーは着地の衝撃に身体を弛緩させながらも、竜角に炎を溜め込んでいた。今にも爆発せんと胎動する熱量を一息に放出し、特大の火炎弾として道周を迎撃する。


「貴様の攻撃パターンは見極めた。近接攻撃しか持たず、翼を持たぬ貴様に勝てるか!?」

「勝つんだ。お前は俺に近付かなければ勝てないのだからな!」


 啖呵を切った道周は、その言の葉に劣らない力を発揮する。異能の戻った魔剣で火炎の神秘を切り裂いて、地上に立つテンバーに肉薄する。


「ぬっ……」

「一度見た技だ。当たると思うな」


 しかし道周の剣閃はテンバーには当たらない。テンバーは竜翼を広げ、砂塵を舞い上げて飛び立つ。その速度は瞬きの間に消えるほど早く、目を離すと見失ってしまいそうであった。


「ここからは私の独壇場だ。一方的に攻めさせてもらうぞ」


 飛翔したテンバーは火炎弾を繰り出した。道周が飛んでも跳ねても届かない高度から打ち下ろす火炎は、テンバーの言葉の通り一方的な空爆である。


「いいや。テンバーは自分から降りて来るね。俺の予言は当たるんだ」


 だが道周は腐らない。テンバーが一方的に攻めようと、躊躇なく火炎弾を繰り出そうと防御に集中する。視界の一面を覆う火炎弾の驟雨を丁寧に切り裂いて、完全な防御を成し遂げる。


「くぅ……。やはり厄介なのは魔剣か。遠距離攻撃では埒が明かない……」


 上空から火炎弾を繰り出すテンバーは確かに優位に立っていた。一方的に遠距離から攻撃を繰り返し、道周の消耗を狙う。はずだったのだが、道周が消耗し変調する様子は一向に見られなかった。ましてや火炎を繰り出すテンバーの消耗は激しく、道周に斬られた傷が疼いてしまう。


(まさか……、この男、この状況を見越していたのか……!?)


 飛翔するテンバーはようやく冷静さを取り戻す。怒りと焦りで失っていた理性で状況を俯瞰すると、自分が追い詰められていたことに気が付いた。


 ――――テンバーは自分から降りて来るね。


 道周の含みのある言葉がちらついた。


(く……。業腹だが、背に腹は変えられぬか……!)


 奥歯を噛み締めたテンバーは腹を決めた。距離を置いて勝利を確信していた自分を戒め、作戦を切り替えた。連発していた火炎弾を打ち止めると、次は猛炎の絨毯攻撃を繰り出す。それは道周を焼き尽くすためのものではなく、視界を塞ぐための牽制である。

 道周は魔剣で火炎を切り裂いた。その様子は防戦に徹していた惰性ではなく、起伏ある戦況に対応する戦士のものであった。

 対するテンバーは火炎を放つと同時に突貫を仕掛けた。広げた竜翼で力強く空を撃つと、音を置き去りにして勝負を近接戦に持ち込んだ。迷いのない羽撃きは道周が火炎を切り裂くことを信じて止まず、打突の構えを取っている。


(来るか……!)

(行くぞ!)


 2人の意志が重なった。すでに退路はない。退く気など毛頭ない。ここまでせめぎ合えば、攻め続けた方が勝利を手にする。

 猛炎の壁が断割される。2人を阻むものは何もない。

 空から急襲するテンバーと、地上で迎撃する道周の視線が重なった。接敵まで、0秒――――。


「うおおおぉぉぉ――――!!」

「はぁぁぁ――――!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ