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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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剣と見と念 1

 晴天に太陽。ぎらついた日差しは容赦なく大地を照り付け、凛然と天上で輝いていた。

 地上には2人の戦士。熱を帯びる魔剣と黒剣の衝突は、幾千もの火花を散らす。


「はっ!」

「むん!」

「この……」

「甘い!」

「これならどうだ!」

「ぐ……。らぁぁ!」

「ぬう……。ふん!」

「ぐっ……。中々やる……」


 道周とテンバーが撃ち合うこと数十太刀。譲らない戦士たちは依然として互角の剣戟で競い合っていた。

 道周が魔剣を縦に振れば、テンバーは黒剣を横に薙ぐ。どちらも譲らない攻撃は、同時に相手に対する牽制になっていた。

 テンバーが一歩踏み出して黒剣を引き絞る。剣先を道周に向ける構えは打突のそれであり、狙いは回避が困難な身体の中心部へ定められていた。


(これは……)


 互角に渡り合う剣閃の中でも、道周は見極めていた。テンバーの僅かな重心のずれに、剣先の傾きから狙いを推測する。同じ剣士としてテンバーの思考はよく分かる。何が一番の選択であり、最善策なのか。己の経験と、「眼」で見極めた状況から素早い判断を下す。


「せぇ……い!」

「くぅっ!」


 道周は脚を開いてテンバーに対して半身を見せる。一見弱腰に思える足捌きのまま、テンバーの突きを捌いてみせた。

 テンバーの打突は理想形に近い型であった。敵の身体の中心。避けると受けるの判断が難しい攻撃であり、当たれば痛手を負わせる選りすぐりの一手であった。

 最善手を選びきった2人の攻防は、道周に軍配が上がる。道周は身体で回避し魔剣で受けるという選択を取ると、テンバーの突きを後ろに受け流した。

 そして道周が横に開いた一歩が効果を発揮する。テンバーに対して半身に構えるということは、踏み出しの一歩のアドバンテージを稼ぐという意味でもあった。さらには無駄のない脚運びでテンバーの背後に回ると、絶好の攻撃チャンスが訪れる。

 防勢から一転。攻勢に転じた道周は冷静であった。獣帝お墨付きの「眼」で見極めた狙いは、一点に絞っている。一息で前のめりの体勢を整えると、両脚で地面に踏ん張りを利かせた。


「背後を取った程度で甘い!」


 しかしテンバーとてただでは転ばない。一太刀を浴びるならば、それに相当する一撃を差し違える。それは戦術というよりはもはや維持の抵抗であり、テンバーを突き動かす闘志である。

 ただの人間が背後を取られたならば、それは確かにピンチである。だが、こと竜人のテンバーにおいては背面にも届く尾があった。鱗に覆われた尾は振るえば鞭に化ける。内包した筋力を遺憾なく発揮して、その尾で道周の袈裟を薙ぎ払った。


「むっ?」


 ……が、テンバーの尾は空を切った。確かにそこにあるはずの道周の身は捉えられず、テンバーは体幹を無理矢理捻って視線を背後に移すが、そこに道周の姿はなか


「もらった――――!」

「――――下か!?」


 道周の声に反射したテンバーだったが、僅かに手遅れであった。竜人の反射神経と体捌きを以ってしても回避不能の一閃は、死角の足元から放たれた。

 道周は遂にテンバーを切り裂いた。テンバーの超人的な反射速度で直撃こそできなかったが、魔剣は確かにテンバーの黒鎧を切り裂き鮮血を散らす。


「くっ……! そぉ!」 


 テンバーは胴を裂かれ悔しさを滲ませる。しかし優勢だけは譲らないという意地に突き動かされ、後方へ跳ぶと同時に火球を放った。悪足掻きにも見える火炎弾の乱射だが、道周の動きを見越した精細に満ちた反撃であった。

 道周は素早い脚運びで火炎弾を回避する。だがテンバーの狙いすまされた冷静な反撃は、道周の行く手を見越して放たれていた。脚を着いても安堵する暇はなく、次々と襲い掛かる火炎弾から転がるように逃げた。

 攻撃をもらったテンバーだが、咄嗟の機転で勝負を仕切り直す。傷の痛みを押し殺して体勢を整えようと着地するも、道周が跳ね返るように突進するのが確認できた。


「休ませるかよ!」

「飛び込んでくるのなら迎え撃つまで!」


 地面を蹴って跳躍する道周に対し、テンバーは火炎弾を繰り出した。白兵戦では多少の遅れは取ったものの、遠距離攻撃を有するテンバーの有利は変わらない。これは仕合いではなく殺し合いだ。己の優位を遺憾なく発揮し、相手を凌駕した者が生き残ることをテンバーは理解していた。

 道周は眼前から襲い掛かる火炎弾の間隙を潜り抜ける。隙間なく放たれたように見える火炎弾の隙間を見切り、高熱に頬を掠めながら魔剣を提て突貫した。


「これを避けるのか……。ならば、これは避けられるか!?」


 道周の回避術に感嘆したテンバーは、さらなる一手を放つ。橙色の竜角に熱を溜め込むと、それを息吹のように一斉に放出した。この火炎ならば回避は不可能。真に道周の魔剣が異能を失っているのならば、勝敗を決する攻撃と言っても過言ではないだろう。

 事実、放たれた火炎は絨毯のように空間を覆い尽くす。それらに隙間はなく、道周に覆いかぶさって燃やし尽くした。

 ように思われた。


「――――らぁ! ここまで温存したんだ。決めさせてもらう!」


 道周が遂に魔剣の異能を解禁した。ソフィに悟られず、味方しか知らない奥の手を開放し、自らの道を閉ざす赤熱の壁を斬り払う。その先では大技を繰り出し疲労を滲ませるテンバーが居た。

 こうなれば道周の道を阻むものは何もない。テンバーまでの切り開かれた道を特攻し、振り上げた魔剣を一思いに振り下ろす。

 火炎の連発で呼吸を乱すテンバーだが、そう簡単に敗れはしない。握り締めた黒剣を振り上げて、道周の一閃を受け止めた。


「貴様、やはり奥の手を隠し持っていたか!?」

「どうだテンバー。ソフィからの情報にはなかっただろう?」

「スパイの情報に頼るつもりなど毛頭ない。私は私の見たもの、感じたものを信じる。そして、貴様の魔剣の柄に嵌め込まれた碧い宝玉と、異能を見た。それは依然の魔剣と遜色のない名刀であるということだ!」

「なら、このまま大人しく魔剣の錆になりやがれ……!」


 今度は道周が上からテンバーを圧倒する形となった。道周はこれを好機と捉え、魔剣に体重を預けて圧力を加えた。

 窮地に立たされたテンバーも、今は耐え忍ぶときと食い縛って黒剣を握り締める。

 2人の戦士は鍔迫り合いになっても譲らない。意地と意地が刃に乗って削り合う最中、道周がポツリと言葉を漏らした。


「気に入らない……」

「何だと?」


 道周が漏らした言葉に、テンバーは食って掛からずにはいられなかった。


「テンバーみたいなやつが。誇りある戦士が魔王軍にいるのは納得がいかない。テンバーの正義はどこだ? 戦士として、心から魔王に忠誠を誓えるのか?」


 道周の言葉は挑発などという安いものではない。テンバーという戦士を評価し、畏敬の念を持つからこそ、テンバーが身を置く環境に疑問を呈さずにはいられなかった。

 対するテンバーは、道周の問い掛けを侮辱と受け取る。命を奪う戦いの中で、その根本を疑うなど言語道断だ。


「魔王に正義はあり、私はその正義に忠誠を誓った。だから戦場に立っている!

 それを問うなど、私への、いいやこの戦いへの最大の侮辱だ!」


 テンバーが吼えた。明確な怒気を滲ませて、それを燃料とする。再起するテンバーは馬鹿力を発揮し、抑え付けている道周の身体を押し返して立ち上がった。その瞳には、煌々と燃え上がる怒りの炎が灯っている。

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