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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
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夜王の刺客

あらすじ

「夜王」のお膝元たるエルドレイクに足を踏み入れた道周とリュージーン。そんな2人へ迫る近衛兵は数を増し、追撃の手は苛烈を極める。

必死の大脱走劇を繰り広げる2人に響く鐘の音は、福音となるか絶望を知らせる警鐘となるのか。

 2つの激しい足音が煉瓦の街道を走り抜ける。歩調の異なる疾走は外へと向かい、目指すは常夜の檻からの大脱走だ。


「逃げきれるか!?」

「せめて外まで出られれば、雪に紛れて逃げられる。露払いは任せたぞミチチカ」

「リュージーンも働けよ!」


 けたたましく言い争う2人へ目掛けて、黒装束の騎士が急襲する。


「逃がすか!」


 また1人、騎士が切っ先を向けて急降下してくる。ほぼ90度の加速は破壊力を増し、ミサイルにも近い威力で道周の脳天を狙い撃つ。

 道周は襲い掛かる騎士を難なく受け流した。

 華麗にいなされた騎士は同方向に加速する。風切りの音とともに、粉塵を巻き上げ煉瓦へ突き刺さった。

 道周は撃墜した騎士の手から剣を引ったくってリュージーンへ渡す。


「ほら、これで戦えるだろ?」

「いや鬼かよ。顔面から落ちたぞ」


 若干引きながらもリュージーンは剣を受け取った。「あまり俺に期待するなよ」と前置きをしながら、剣の感触を確かめる。


「……っまだ。俺たちの任務は終わってない!」


 すると地面に激突したはずの騎士が威勢よく立ち上がった。未だ土煙が立ち上る道を踏み砕き、怒号を上げて奮起した。


「頑丈だなしぶといぞ!」

「構うなリュージーン! まだまだ上から来てる!」

「くそっ。わらわらと沸いてきやがって!」


 苦虫を噛み潰したような顔で2人は頭上の黒点の群れを睨む。しかし多勢に無勢、大人しく尻尾を捲り逃走を図った。

 一目散に逃げる逃走者を追いかける騎士たちは数を揃える。空中と地上で陣を展開し、人海戦術で捕らえる算段だ。

 リーダーと思われる男も、思わぬ強敵に冷や汗を流しながら、その眼は血走っている。

 無論、リーダーに取り逃がすという懸念は一切ない。気掛かりなのは「時間」であった。

 捜索を始めてからそろそろ"半刻"、これが意味する恐怖を唯一知るリーダーは、恐怖に抱かれ焦燥に駆られていた。


「取り囲め。数で押し切るんだ」

「「「御意!!」」」


 団子になって追いかけていた騎士たちは展開と収束を繰り返し、翼を広げ道周たちの道を塞ぐ。が、


「邪魔だ!」


 陣の展開により人手が薄くなった箇所を突破される。

 道周は一人一人を確実に倒すのではなく、最小限の攻撃で撃沈させる。一瞬だけでも意識を飛ばせば十分、たった2人が逃げる穴なら容易く抉じ開けられた。

 目指すゴールはすぐそこだ。漆黒の天幕は阻むでもなく、大口を開くように構えている。


「よし、このまま……」

「突っ切るぞ!」


 猪突猛進に突き進む2人の顔が弛緩する。


 「逃げた」


 その確信が目の前に降り立ったとき、


 --------ズゥゥゥン……!


 降り立った絶望が音を轟かせて希望を踏みにじった。

 目の前に落ちたのは、まるで夜空を覆う天蓋の落とし物のよう。どす黒い塊はうねりながら変形して人の体を成す。

 人形の風格は近衛兵たちとは一線を画し、視界を一杯に塞ぐほどの翼。漆黒の外套から露になる墨色の髪と対称的なのは病的なほどの蒼白の地肌。フードの影から覗かせるのは危機感を刺激する紅の瞳。


「……や、夜王--------!?」


 近衛兵を率いるリーダーが、震えながら声を漏らした。

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