素顔の暴露
「何が誇りですの。何が仲間ですの。そんなもの私には不要ですわ。
村にいた魔女たちは私を否定しました。私の研鑽を否定した者を仲間なんて認めません。
私には魔王だけが居てくだされば十分ですわ!」
「あなたを否定した魔女たちは紛れもなく仲間だった。仲間は全てを肯定する存在じゃなく、引き留めてくれる存在。あなたは自分の手でその手を断ち切った。
あなたは自分の全てを手放しで肯定する魔王に依存しているだけ。あなたは取る手を間違えた!」
「貴女のような小娘が私を語らないで! 私が求める不老不死という理想に必要なのは仲間ではありません。全てをくれる魔王だけですわ!」
「その理想の果てに残るのはあなたの孤独だけだよ!」
魔女たちの想いは正面からぶつかった。
飛翔したアイリーンは悪鬼のような形相で牙を剥き、両掌に抱えた火炎を撃ち出す。
対するマリーも空へ飛び立つ。アイリーンの魔法を相殺するように暴風を巻き起こし、右腕を掲げて突貫を仕掛けた。
純白の魔鎌「ユゥスティア」はマリーの動きに応えるように自立飛行を行う。飛び立ったマリーの背に追い縋り、その刃をアイリーンへ向けて発射された。
アイリーンは「魔女殺し」という権能を持つ魔鎌を疎ましく思う。まさに天敵とも言える存在の登場に思わぬ苦戦を強いられ、余裕を保つことができずにいた。
「くぅ……。面倒ですわ。厄介ですわ。目障りですわ! 一度死んだ分際で、鬱陶しいですわ!」
「あなたはユゥを殺せていないわ。その魂は決して折れない。あなたの魔法で手折ることはできない!」
「うぅぅぅ……、ぬぁぁぁ!」
アイリーンの放った業火は暴風に掻き消える。残るのは肌を焦がすような熱風とアイリーンの苦悶の声であり、それを切り裂くようにユゥスティアが突貫した。
躊躇なく飛び込むユゥスティアを阻むものは何もない。ユゥスティアはアイリーンの胴へ斬り込んだ。今までの二太刀は肩と横っ腹に浅い裂傷を創った。しかし今度の三太刀目はアイリーンの大腿に深い傷を与えた。
アイリーンは脚から赤い血飛沫を飛散させ奥歯を噛み締めるも、戦意は決して折れない。それは覚悟などという大それたものではなく、苛立ちと怒りを発散させるだけの駄々である。
「ぅぅぅ、目障りですわ!」
「――――」
アイリーンは恨みの込めた視線でユゥスティアを睨み付ける。
当のユゥスティアは彼方へ飛んで行くも遠方で弧を描いて反転する。180度転換したユゥスティアは再びアイリーン目掛けて飛来する。
「鬱陶しいですわ死に損ない!」
「させないよ!」
アイリーンが迎撃の魔法を繰り出すが、同じ高度まで飛翔したマリーが阻止する。そしてアイリーンの迎撃を潜り抜けたユゥスティアが空を切ってアイリーンの身を斬り付ける。
「ぐぅぅぅ――――!」
屈辱の四太刀目を浴びたアイリーンは口を噤んで苦悶を漏らす。痛みに悶え叫ぶことはアイリーンのプライドが許さない。アイリーンの「大魔女」という矜持が許さなかった。
「小娘が……。死に損ないが……。私に傷を付けるという愚行、その意味を理解しておりますの――――!」
アイリーンが怒りを叫ぶが、マリーとユゥスティアの連撃は止まらない。
アイリーンは苦渋をすすりながら、唇を噛んで防御に回る。
マリーが放つ青雷は、アイリーンが霞になっても巻き上げられてしまうほどの熱量を内包している。
そしてユゥスティアの刃は魔女であるアイリーンの魂を捉えて不可避の斬撃を叩き付ける。
厄介極まりない攻撃にアイリーンはかつてない焦燥を抱いていた。
「どうしたのアイリーン。化けの皮が剥がれているよ」
「……っ!?」
その気持ちの荒波が、アイリーンの本性を露わにする。




