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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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一角獣の涙

「もう一度立ち上がったことは評価しますけど、遂に仲間を手にかけましたわね! 仲間の意志を継ぐとか背負うとか宣いながら、貴女も所詮は魔女ですの。私と何も変わらない魔女ですわ!」

「だと思うのなら思えばいいわ。けど、私はそう思わないから、あなたを否定する!」


 啖呵を切ったマリーは魔鎌を振り上げた。破壊された左腕など気にも留めず、ジャバウォックの首を落とした純白の大鎌の刃が光る。

 マリーを見下ろす形で飛翔するアイリーンは、その振る舞いに青筋を立てた。絶望を与えたはずの相手が再び立ち上がる姿は、アイリーンの気性を逆撫でする。


「ああ、もう結構ですわ! 貴女でもっと遊んであげようと思いましたが、殺します。分解(バラ)して弄んで辱めて、残酷に殺しますわ。

 一体どんな手品を使ったのかは知りませんが、そんな鎌一本で何ができますの!」


 未知の大鎌に苛立ちを覚えたアイリーンは珍しく気性を荒らげた。今まで見せていた余裕の仮面は剥がれ落ち、眉間に深いシワを刻んで突貫した。

 暴風に身を乗せたアイリーンは瞬きの間にマリーへ肉薄する。マリーが如何に鋭利で巨大な大鎌を振るおうと構わない。武具の扱いの不得手なマリーの愚鈍な一振りなど容易に回避できるし、物理的な攻撃ならば霞なって受け流せばよい。苛立ち疾走するアイリーンには、依然として確実な勝利の芽が見えていた。


「微塵にして差し上げますわ!」


 マリーに接近したアイリーンは両腕を突き出した。掌に展開された魔法陣はユゥを殺した分解と再構築の魔法だ。掠れば最後。その肉体は原子レベルに分解され、無窮の怪物へと変貌してしまう。

 アイリーンが誇る最凶最悪の一撃必殺を前に、マリーは動じなかった。凛然と立ち尽くして、右腕だけの膂力で純白の大鎌を振り被った。


「せぇぇぇい!」


 マリーは両目でアイリーンを見据えて鎌を振り切った。大いに湾曲した刃が牙を剥く。それがただの鎌ならば決してアイリーンには届きはしなかっただろう。

 しかし、マリーが受け継いだ鎌は「魔女殺し」の魔鎌であった。それは魔女を殺すという執念と修練の結晶であり、怨念にも似た権能を宿していた。


「そんな武器なんて当たりません――――、いえ。まずい――――!?」


 刃の切っ先を目前にしたとき、アイリーンは危機を察知した。その鎌の正体が何か掴めていないという状況にあって、本能が逃げろと警鐘を鳴らした。

 全霊の特攻から180度一転、アイリーンは霞に化けて身を翻した。血相を変えた決死の魔法を素早く潜めると全身全霊で回避に徹した。

 マリーが振り抜いた魔鎌は止まらない。右腕一本で乱雑に放った一閃は止まるところを知らず、霞に消えたアイリーンを振り払うに終始した。が、その一閃は効果覿面であった。


「がっ――――」


 アイリーンの身から鮮血が飛び散った。その軟な身には、一本の刃の傷痕が深々と刻まれていた。

 アイリーンは確かに霞に化けた。物理の届かないものとなり、確かに攻撃を受け流した。はずだった。


「ど、どうして……、私が傷を……?」


 完全に回避をしたはずのアイリーンは明らかに戸惑いを見せていた。今まで受けたことのない刃の痛みに身が震える。しかし、それ以上に小娘と侮っていたマリーに傷を負わされた事実に怒りが込み上げる。


「その武具は何ですの!? 一体どこから。一体誰から。一体いつから!?」

「これは「魔女殺し」の魔鎌。あなたとの因縁を終わらせるための奥の手!」


 啖呵を切ったマリーは魔鎌を担いで脚を広げた。肩幅以上に広げた脚で踏ん張りを効かせ、右腕に力を込める。沈黙した左腕を振り子のように使い、鎌と振るう体幹のバランスを取る。身体を弓のように振り絞って、思い切りよく魔鎌を投擲した。

 一見、乱雑で自暴自棄の投擲だ。魔鎌は弧を描いてアイリーンに真っ直ぐに飛び込むが、それが命中するほど単純ではなかった。


「一度攻撃を当てたからといって、調子に乗らないでください。そんな雑な攻撃なんてあたりませんわ!」


 宙を飛ぶアイリーンは華麗に舞踏して文字通り宙を舞う。今度は危なげなく魔鎌の軌道から外れて、かすり傷もなくやり過ごした。

 そして次にマリーへ視線を向けた。怒りの熱と知性の冷静さの狭間で、アイリーンは追撃を構える。高熱の火球で、危険の及ばない遠距離から射撃を行う。

 魔鎌を投げたマリーは、空いた右腕で防御をする。左腕は全く役に立たないので、鎌の扱いと魔法の発動は右腕に託されている。

 となると、マリーの右腕は現状だと防御に徹することとなる。反撃の隙も与えないアイリーンの猛攻を前に、マリーは再び防戦に回っていた。


「ほらほら! さっきまでの威勢はどうしましたの。虎の子の「魔女殺しの魔鎌」、でしたっけ。あれを適当に投げたりしなければ、まだ勝機はあったでしょうに!」


 威勢を取り戻したアイリーンは声を荒らげる。そこにはアイリーンが湛えていた品性も美貌もなく、まさに「大魔女」と言わんばかりの醜悪な表情を浮かべていた。


「がっ――――!?」


 だが、アイリーンの攻勢に再び水が差された。それは宙を舞い流星のように輝く、白い光の一閃であった。

 アイリーンに二つ目の手傷を負わせた純白の魔鎌は、仕組まれたようにマリーの右手に戻った。

 マリーは魔鎌の柄をしっかりと掴んで、再び湾曲した刃をアイリーンに向けて言い放つ。


「私たちであなたと決着を着ける。行くよ、「()()()()()()」!」

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