火蓋切る剣閃
マリーとアイリーンが戦闘を始めた。2人の魔女が有する魔法は大爆発を巻き起こし、轟音を上げて周囲を震撼させる衝撃を放つ。
時を同じくして、進軍する道周も因縁との邂逅を果たしていた。
「――――……先に行ってくれバルバボッサ、ガウロン。こいつは俺の相手だ」
「我も去ってよいのか? 相手は空を行く相手であろう?」
「いいさ。飛ぶ相手を落として勝つ。俺はそうやって異世界転生を勝ち抜いてきた」
「……いいだろう。行くぞバルバボッサ」
「おいおい、おれが命令されるのか。まぁ構わんが」
軽口を交わしたガウロンとバルバボッサだが、その面持ちは真剣な色に満ちていた。獣帝と鷲獅子は道周という戦士を信じ、この男の勝利を確信していた。
ガウロンは道周を地上へ降ろすと、振り返ることなく飛び立った。大きく勇猛な翼と背中を遠方へ消え入り、バルバボッサは激励を言葉ではなく背中で語り飛翔した。
「――――皆は地上戦への加勢へ向かえ。この男は私が倒す」
「しかし、魔王からはこの場を死守せよとのお達しが」
「構わない。魔王は私の意志を裏切った。ならばその命を一度くらい順守せずとも罰されはしないのが道理だ」
「……ご武運を。我らは隊長の勝利を信じております」
竜人たちは確固たる決意と信頼を寄せて身を翻した。その翼で戦場を変え、獣帝という強敵に対する無謀な戦意を燃やした。
己を信じ飛び去って行く同胞の背中を見送り、テンバーは胸が締め付けられた。勝ち目のない相手への戦場へ仲間を死にに行かせるなど、長たるテンバーには苦渋の決断であった。だが、仲間よりも優先して好敵手と見込んだ男との決着を望んでいた。
道周とテンバーは仲間を見送る。その背中が見えなくなるまで見送ると、やっと視線を好敵手へと向けた。ようやくぶつかった視線は鋭い敵意に満ちており、この場で雌雄を決するという鋼の意志が秘められていた。
邪魔する第三者のいない戦場に風が吹く。乾いた風には死臭が充満しており、背筋が凍るような緊張感が漂っていた。
「名をミチチカ、だったな。こうして相まみえるのは3度目か」
「1度目は全く歯が立たず、2度目は皮肉にも同じ敵と戦った。そして3度目だ」
「次はない。ドーゲンのときのよう邪魔はさせない。私が許さない。戦士の誇りと決闘を汚させなどさせるものか……!」
そう言ったテンバーと怒気とともに火を吹いた。テンバーは魔王軍の特務部隊を率いる隊長以前に、1人の戦士である。
テンバーたち竜人が魔王軍に籍を置くのは、魔王が竜人より優れているから。かつて竜人の祖が魔王と決闘し敗北した日より、竜人たちは強者である魔王に忠誠を誓っている。しかし、戦士としての面目を汚すことは許していない。誇りを殺して隷属した覚えはなく、何よりも優先するべきは戦士として生き抜くことであった。
「いいぞ、そういうの。俺好みだ。ついぞ忘れていた、闘争心が疼いてきやがる!」
「そうこなくては! 魔剣の神秘は失われたと聞くが、躊躇はしない。私の全身全霊でミチチカを斬る!」
2人が啖呵を切ると、その先は単純明快であった。そこに開戦のゴングは不要。ただ鳴り響くのは剣が鞘に擦れる金属音のみであり、その抜刀と突進はほぼ同時であった。
GYIiiiNNN――――。
魔剣と黒剣が衝突する。鳴り響いた金属音は甲高く力強い。一振りで巌を伐採する刃は、繰り返し撃ち込まれた。
荒涼とした大地に剣戟の音が木霊する。鍔迫り合いは苛烈を極め、文字通り火花を散らす。




