爆ぜる少女ら
道周とソフィが衝撃的な再会を果たし刃を交える。その戦闘は長時間に渡り日が沈んだ。西の大地で繰り広げられた獣人とミノタウロスたちの戦闘も激化する中、南の大地でも同様に戦闘が勃発していた。
砂漠の大地では亜人と魔王軍の白兵戦が行われていた。亜人の一人一人は獣人ほど高い戦闘能力は持たずとも、洗練された業を併せ持つ。数で勝らずとも軍略と統率で勝る。そうやって保たれた戦線も、突如として現れた特務部隊によって打ち崩された。
竜人たちは竜角から業火を放ち、さながら空爆のような空襲を仕掛ける。その攻勢を阻んでいたユゥも多勢に無勢、長期戦になればなるほど体力は擦り減っていく。
特務部隊の長であるテンバーを相手取ったマリーは、その怒涛の攻め手に後手に回されていた。
「ぬん!」
テンバーが翼を撃つ。打ち付けられた大気は太鼓のような轟音を鳴らした。テンバーの初速は音に迫り、並みの反射神経では捉えることのできない剣閃を見せる。
圧倒的な速度と膂力を誇るテンバーを相手に、マリーは先んじて牽制を仕掛ける。速度では劣るマリーは魔法を点在させ、その動きに対して要所要所の魔法を起動させる。
マリーはテンバーが突き進む軌道上で光球を爆散させた。赤々とした火炎がテンバーの身を包み焼き焦がすが、黒鎧が火炎を通さない。もとい、炎を操る竜人のテンバーに爆炎が通用するはずがなかった。
「もう一丁!」
そんなことはマリーだって百も承知だ。マリーが光の爆弾を仕掛けたのはテンバーの勢いを減衰させることにあった。爆炎でテンバーの視界を塞ぐ効果も期待し、本命は次である。
杖を振り下ろしたマリーはありったけの青雷を放つ。網状に撃ち出された雷電はテンバーに牙を剥いた。
強靭な黒鎧を纏うテンバーとて、この雷だけは身に受けることは避けたかった。だからこそ黒剣を繰り、青雷を束ねてみせた。黒剣の切っ先で雷を受けると、発散させるように天へ逃がす。そうしてマリーの迎撃を掻い潜ったテンバーは遂に肉薄した。
「もう終いか。その身体、貰うぞ!」
「うっ……。こうなったら――――!」
テンバーが黒剣を真一文字に薙ぎ払った。
胴を裂かんとする一閃を前に、マリーは奥の手を使わされた。それはユゥとの「試練」を通して身に着けた「風に成る」という魔法であった。
「ぬっ!? 面妖な業を!?」
実体ある肉体が、掴みようのない一陣の風に化ける。
ありったけの膂力と身体の回転を駆使していたテンバーの剣閃が空を切る。テンバーは空振りとなったことよりも、マリーの成長速度に驚いていた。
風と成ったマリーはテンバーから距離を取ろうと身を翻す。確実な防御策である魔法を切ったマリーは、ひとまず安心感を胸にテンバーへ背を向ける。だが、マリーはその油断が戦場で命取りになるということを知らない。
「……面白い。ならば、その魔法を攻略してみせよう」
テンバーはマリーへ感服すると笑みを溢した。それは目の前の強敵を攻略するという強者との戦いの醍醐味を楽しむ心であった。
テンバーは持ちうる全ての知略を巡らせ戦略を組み、そして己の業を信じる。そうすることで不可能の壁を打ち破るのは、テンバーが真の戦士であるという証左であった。
テンバーは策を決定する。それが即興の物であろうと、疑うことなく行動へと移した。
「スゥゥゥ――――」
テンバーは仰け反ってまで胸一杯に息を吸いこんだ。同時に竜角に熱を込め、漲る熱量を双角に湛えた。これでもかと空気を吸い込み、陽炎が浮かぶほどに竜角に熱を溜め込む。全ての準備を終えたテンバーは、
「はっ――――!!」
それらの全てを刹那の内に放出した。竜角から放たれた高熱は、放出された空気に煽られ一息に燃え上がる。それは耳も目も塞ぎたくなるほどの、尋常ならざる大爆発を引き起こした。




