もう一つの開戦
スカーが宣戦布告の火炎球を放ったと同時刻、西の領域グランツアイクでも開戦の狼煙が上がっていた。獣人たちを率いて戦闘に立つ獣帝バルバボッサ・バイセは、大木のような巨腕を振り上げて進行の音頭を取っていた。
「さぁ時は来た。今頃南の兵も轟声を上げて突き進んでいるころだろう。おれたちも負けてられん。行くぞ!」
「「「うおぉぉぉ――――!!」」」
獣人たちは吼え猛った。その身体に流れる獣の血と闘争本能が、高い戦闘能力に磨きをかける。
「では、あんたたちの力も存分に頼らせてもらう。巨人の実力、余すことなく発揮してくれよ」
「もちろんだよ。無論だよ。当たり前だよ。そのために駆け付けたのだから、「我慢しろ」なんて言われる方が癪だよ」
バルバボッサと気軽に言葉を交わすのは、巨人の長であるドエーだ。チョウランからの長い旅を経て助力に来た巨人たちは、それぞれの大戦斧を掲げて唸りを上げる。
鬱蒼と生い茂る森林地帯と大陸を流れるテテ河という大河で、雄々しい大軍が列を成す。
その上空で、対空部隊を指揮するモニカも気合を入れる。
「貴女たちも、遠慮なく存分に戦ってくださいね。グランツアイクには飛行能力のある者は稀有なので、とても頼りにしていますので」
「えらい褒めてくれますけど、プレッシャーですわ。でもまぁ、頼られたら悪い気はしないから頑張りますわ」
モニカは同じ空で飛翔する天馬と会話を交わす。その天馬を率いる白く麗しの長、ミチーナが微笑を溢した。
モニカとミチーナの間には淡泊な時間が流れるが、その余裕は確かな実力から来る自信があった。
「うちらも遅れをとるわけにはいきません。地上の部隊に続きましょうか」
「えぇ。遺憾なく、天馬の実力を発揮してください」
麗美で余裕に満ちた笑みで、モニカとミチーナが空を行く。残る4頭のペガサスたちも後に続き、エヴァーを目指す。
緑の大地の遥か彼方にも、未だ敵影は確認できない。だが、大戦が始まったという実感と緊張感を胸に前進する。




