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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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開戦

 フロンティア大陸全土に陽光が差し込む。

 切り立った山脈に広漠とした大地、鬱蒼と生い茂る森林に流麗に流れる大河という地形の違いはあれど、紛れもない夜明けの合図である。


「いよいよだな」

「……始まるんだね」


 テゲロの中央に位置する太陽神の宮殿、またの名を「太陽神殿」と称する大型建造物の庭先で道周とマリーが感傷に浸る。遂に来てしまった開戦のときに、否が応でも緊張感が身を強張らせる。


「いい緊張感だよ2人とも。だけどもっと肩の力を抜かないと。これから先は「戦争」なのだから」

「そうだ。オレの仕事はここまで。後はお前らにかかっているんだから、しゃんとしてくれよ」


 顔を強張らせる道周たちに、セーネとリュージーンが激励の言葉をかけた。2人を律しようとかける言葉尻にも僅かな硬さが感じられる。言葉で何と言おうとも、セーネたちも緊張を隠せずにいた。

 遅れて現れたセーネとリュージーンに続いて、神殿からスカーが現れた。スカーは金を基調にした装束を身に纏い、その上から馴染んだ鎧を装着している。

 スカーのために拵えられた鎧は特注である。長くしなやかな四肢に干渉しないように身軽に作られており、肩と胸部、腰など必要最低限の装備に終わっている。それ以外のヘソや脚などは大胆に開かれており褐色の肌を覗かせているが、機動力を損なわないための必要最低限らしい。


(わらわ)の用意は万端だ。其方たちはどうだ?」

「問題なし!」

「行けるよ!」


 スカーの問い掛けに、道周とマリーが食い気味に答えた。尻込みしてはいられないと気丈に鼻を鳴らし、それぞれが魔剣と杖を振りかざして声を上げた。

 スカーは元気と威勢のよい返事に笑みを浮かべる。


「よい返事だ。では、其方たちを我らが誇れる最前線へ案内しよう」


 スカーが直々に道周たちを案内する。太陽神殿の敷地を慣れた足取りで先導し、大門を越えてテゲロの目抜き通りを闊歩する。

 追随する道周たちもどこか誇らしげな足取りの中、リュージーンが声を張り上げた。


「道すがらで悪いが、作戦の確認をするぞ」


 その提案を否定する者はなく、神妙な面持ちで耳を傾けた。


「主戦力はニシャサとグランツアイクに集約させて、攻防一体の横に広い陣形を取る。そしてニシャサの対空部隊の指揮はスカーが、グランツアイクの対空部隊の指揮はモニカ。対地部隊はイルビスとバルバボッサが指揮する」

「ジャバウォックなる怪物の奇襲対策であるな。空と地、両方に戦力を割けられたのは敵の謀略か。だが、言葉を返せばこちらもいつでも空から攻められるということよ」

「そういうことだ。そして道周とマリー、セーネには遊撃を任せる。こちらの部隊の動きから独立して、敵部隊の偵察・攪乱、場合によっては殲滅まで任せたい。

 夜王が率いるイクシラの吸血鬼たちも北側から夜襲を仕掛けてくれる。それと合わせて南北から奇襲を仕掛ける算段だ。場合によっては幻獣たちにも加勢してもらうから、気負いすぎないでいい」

「別に、魔王を倒してしまっても構わんのだろう?」

「出すぎるなよ。あくまで同盟の戦争だ。今回は「個」の戦いではなく、「群れ」での戦いだ」

「分かってる」


 真面目な指摘を受けた道周は頬を膨らませる。小ネタが異世界人のリュージーンに伝わるはずもなく、隣のマリーが必死に笑いを堪えていた。


「俺たちの仕事は突出した敵の各個撃破。敵の戦力を消耗させて、一斉突撃のタイミングを切り開く。だろう」

「分かってるなら心配になること言うなよ」


 道周とリュージーンが軽口を交わしている内に、一同は兵団の最前線へ辿り着いた。武装した亜人たちの間を抜けて、イルビスが待つ先頭と合流する。そこには厳かな重装備に身を固めたイルビスと、主の到着を待ち侘びていたユゥがいた。

 ユゥはマリーの到着を確認するち、尻尾を振って擦り寄った。逞しい白い身体を摺り寄せて、今すぐ戦えるとアピールするように鼻息を鳴らす。

 そしてもう1頭、この場に似つかわしい物々しい雰囲気を放つ幻獣が頭を上げた。


「……ようやく来たか。決戦の日だと言うのに、呑気なものだな」

「お、お前は……、いつの日のグリフォン!?」


 予想だにしていなかった助っ人の存在に、道周が声を荒らげた。

 リュージーンとセーネはその存在を承知していたようで、特に驚いた様子は見せない。

 誰よりも驚く道周と助っ人の間を取り持ったのは、ユゥの背に跨ったマリーだった。


「改めて紹介するね。こちらガウロン。グリフォンのリーダーで、私に力を貸してくれた友達」

「ガウロンだ。指名を受けたので来てやったぞ」」

「何とも鼻に付く偉そうなやつだな。こいつと同じ部隊のやつは骨が折れるだろうな」

「所属部隊はミチチカと同じ遊撃部隊だぞ」

「え?」

「私はユゥに乗るけど、ミッチーはガウロンに乗せてもらうんだよ」

「えー」


 道周は突然の作戦に苦い顔をした。遊撃が嫌というわけでもなく、今まで伏せられていたことに嫌気が差したわけでもない。ガウロンとコンビを組むということに、いささかのやり辛さを感じていた。


「……と言うわけだ。我の手綱を握るのなら、だらしない戦い様は許さんぞ」

「へいへい。信頼していいんだな?」

「我を誰だと思っている。グリフォンが長、ガウロンだぞ」

「ならよしだ。相棒にとって不足なし」


 突貫で組んだペアも、どこか好相性を匂わせる。一抹の不安も払拭され、開戦までの準備は整った。


 時は満ちた。退くも戻るも能わない、不可避の運命に立ち向かう。フロンティア大陸に生きる意志が御旗を掲げて、導くのは太陽神スカー・ザヘッド。

 美麗な立ち姿で腕を上げ、晴天から大地に並ぶ同士に檄を飛ばした。


「さぁ、では開戦の笛を鳴らせ! 鐘声を上げろ! 宣戦布告の一撃を、見舞いしてやる!」

「「「雄々々々――――!!」」」


 亜人の足踏みと咆哮が砂の大地を揺らす。

 そして天に舞うスカーが、両掌に炎熱を集めた。

 太陽神の名に恥じぬ、まさに太陽と見間違えるほどの火炎球は黄金に輝いた。爛々と輝き熱を放つ黄金の火球は、スカーの御心のままに晴天へ打ち上げられた。

 晴天を駆ける黄金の火球は、瞬く間に視界から消える。その火球は意図的な軌道で千里を越えて、魔王領域エヴァーへと墜落する。


 鼓膜を揺らす爆音が聞こえるようだ。


 事実として、あまりの長距離爆撃のため、爆音が聞こえたわけではない。だが、スカーには確かな手応えがあり、それを開戦の銅鑼の代わりとした。


「進め、妾の勇士たちよ。目指すは魔王領域エヴァー。魔王を討つぞ――――!」


 スカーの号令を皮切りに亜人たちが進行を始めた。道周たちもアイコンタクトを取り、ユゥとガウロンが空を駆ける。

 異世界を揺らす大戦の火蓋が切って落とされた瞬間である。

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