禁忌の話題
「全てのニシャサの民よ。此度の奇襲に対し、よくぞここまで耐え抜いてくれた。其方たちの姿勢、賞賛に値する。同時に、妾から最大級の礼を述べよう!」
「「「雄々々々――――!!」」」
太陽神が宮殿のテラスから号令を上げた。陽光によく焼けた褐色の美女、スカーの凛々しさと雄々しさの混ぜ合わさった演説は見事と言わざるを得ない。
太陽神の言葉に応えるように、テゲロが住人の雄叫びで揺れた。復興途中の街が破壊されても尚折れない気概こそ、南方の領域に生きる者の強さの一環なのであろう。
1頭のミノタウロスと数百頭のジャバウォックの奇襲があった数十分後にも関わらず、その戦後処理は鮮やかで手早い。すでにジャバウォックの残党は討たれ、死骸の処理も着々と進んできれいさっぱりだ。
復興に次ぐ復興にも心は折れず、作業に戻った街は安堵と歓喜の喧騒に包まれていた。
「さて。復興の方は皆に任せるとして――――」
演説を終えたスカーは、スイッチを切り替えて踵を返した。宮殿のテラスから振り返り、向かう先は続く通路の先の大広間である。
天窓から取り込まれた自然光が広間を満たし、中央に鎮座する円卓の紅の装飾を一層際立たせる。その円卓には6人が着席し、1つの空席があった。
演説のときの煌びやかで自信に満ちた表情から打って変わり、スカーは鋭い眼差しを帯びて口を真一文字に結んでいる。円卓の残る空席に座ると早速口火を切った。
「まずは助力をしてくれた魔女同盟の諸君。礼を言わせていただく」
「非常に助かった」
口火を切ったスカーと、その隣に座るイルビスが頭を下げた。
「気にしないでくれ。俺も私怨ではあるが晴らすことができた」
「もっと早く辿り着いていれば被害も少なかった。助力をするっていう約束なのに、半端な形になってごめんなさい」
ニシャサの2人に応えるように、道周とマリーも頭を下げる。マリーの傍らで膝を折るユゥも、主に同調して恭しく頭を垂らした。
「僕こそ、結局何もできないままの合流になってしまった。イクシラの無事は確認したので、そこは安心してほしい」
そう言って立ち上がりぺこぺこしたのはセーネだ。事情があったとはいえ、魔王軍の奇襲に助太刀できなかったことを悔やんでいるのだろう。特に生真面目なセーネは気負い、誠意を見せたのだろう。
「おいおい。どいつもこいつもペコペコしやがって。そんなことをするために集まってもらったんじゃねぇぞ」
「リュージーンはどうしてそんな憎まれ口しか言えないのですか? その舌、一度切り落としましょうか?」
そう言って憎まれごとを吐いたのはリュージーンだった。リュージーンは他の者のように頭を下げるような事柄は思い当たらず、頬杖を着いて不貞腐れた顔をする。
隣に座るソフィが、ふてぶてしいリュージーンを叱り付ける。冗談気のない脅しをかけるとリュージーンは視線を逸らし、ソフィは溜め息交じりに黙礼で謝罪をする。
「……して、リザードマンの参謀よ、妾たちを招集したのは其方が発起人だと聞く。その理由を述べるがよい」
スカーはリュージーンの失言に機嫌を損ねるでもなく、淡々とリュージーンに問い掛けた。
スカーの冷ややかで刺々しい視線を身に受けたリュージーンは、身の引き締まる思いで口を開けた。一つ咳払いをして喉を整えると、姿勢を正して目の色を変えた。
「太陽神がニシャサを離れたタイミングでの魔王軍の奇襲。それに加えて、手薄になったテゲロに、警戒網の隙を突いたミノタウロスの奇襲。
そろそろ白黒付けた方がいいんじゃないか? 内通者の存在を――――」
リュージーンが切り出した禁忌の話題に、一同が息を飲む。静寂の広間に、生唾の通る音が木霊した。




