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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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超えられぬ壁

 テゲロに侵攻したミノタウロスの猛攻は続いた。手始めに立ちはだかった大盾持ち5人を切り裂いた後、襲い掛かる兵士を愛用の牛刀で迎撃する。

 息を揃えた鬼族、人虎、人狼の3人は鉄剣を掲げ、三方向から斬りかかる。鬼族はミノタウロスと同等の体格にものを言わせ、人虎は隆々とした腕力で剣を振る。人狼は持ち前のスピードで背後を取り、ミノタウロスの背中に白刃を突き立てた。


「Guryyy!」

「ふん!」

「そこだ!」

「AaaGyyiii!」

「背中は貰った!」

「Burooo!」


 3人と1頭の攻防は熱を増す。ミノタウロスは3人の猛攻を膂力で受け流し、健脚から生み出す速度で飛び回る。

 3人の亜人も食い下がって攻防を繰り広げ、脅威たるミノタウロスを討伐すべく息巻いた。

 一見互角に見える攻防も束の間だった。痺れを切らしたミノタウロスは3人の剣閃を身体で受け止めると、動きを止めた瞬間に腕を振り下ろす。


「なっ……――――!?」


 人虎の兵士が驚嘆の声を漏らす。剣の手応えと染み渡る流血は戦果であろうが、それと引き換えに眼にするのは巨木のような腕の一振りであった。その光景を最期に、人虎の兵士は虱のように潰される。


「き、貴様! それが人の殺し方と言うのか!」


 鬼族の兵が仲間の死に様に怒り狂った。余りにも凄惨で慈悲もない一撃に牙を剥き、その巨躯でミノタウロスを羽交い絞めにする。

 背中から身体を抑え付けられたミノタウロスだったが、それを御する方法を有していないわけがなかった。ミノタウロスは巨体を仰け反らせ、背中からテゲロの大地に飛び込んだ。細い脚からは想像もできない跳躍をして、背負う鬼族の兵を大地と巨体でサンドする。


「あ――――」


 鬼族の兵の断末魔は、実に呆気ないものだった。体格はミノタウロスと同等であろうと、その身に秘める質量と体積が違いすぎた。ミノタウロスの肉質の固さと重さこそ埒外であり、その重量で鬼族の兵の身は潰された。


「Uuuummmuuu……」


 鬼族の兵を潰したミノタウロスは、背中に伝う肉の感触と血の温もりに愉悦の笑みを溢した。高い知性のないミノタウロスであれど、本能が悦びを知っている。この殺戮と蹂躙こそ、ミノタウロスが求める潤いである。


「この……、よくも……!」


 最後に残された人狼の青年が特攻を仕掛ける。持ちうる脚力の全てを以って突貫し、自重に速力を乗せて腱を突き出す。


「Buuummm!」


 さすがのミノタウロスとて、人狼と速度勝負をして勝るほどの瞬発力はない。だからこそミノタウロスが取った行動は力任せの一択である。

 快感に吼えたミノタウロスは握った牛刀で大振りをした。周囲360度を断ち切るような乱雑な横振りだが、単純な軌跡故に圧倒的な速度を叩き出し、人狼の右膝から下を断ち切った。


「んん!」


 右足が離れ、鋭利な痛みが人狼の身に迸る。

 人狼が苦悶に顔を歪め、僅かに動きが鈍った間隙をミノタウロスが見逃すはずがなかった。

 ミノタウロスは巨掌で人狼の頭を掴むと、赤子のように持ち上げてその身体を弄ぶ。

 人狼は巨掌に爪を立てて抵抗を示す。三肢をばたつかせて剣を突き立てようと振り上げるが、その一閃がミノタウロスの身を斬る前に腕が飛ぶ。


「GRuuuuu……」


 ミノタウロスは穏やかな息遣いで牛刀を振る。その一閃で人狼の胴が断ち切られ、残った胸上はゴミのように投げ捨てられた。


「退避……。退避だ! 我らはこれより、太陽神が来るまで籠城する――――!」


 誰かが叫んだ。その苦渋の決断に異を唱える者は現れず、全身全霊で退却の陣を敷き直す。

 亜人たちのミノタウロスの攻防は、亜人たちの防戦一方のまま第2ラウンドに進んだ。

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