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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
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敵影あり

 勇者との死闘の傷痕を深々と刻み込めれた南方の領域「ニシャサ」の首都「テゲロ」では、今も着々と復興が進められていた。

 かつて喧騒と治乱騒ぎで賑わっていた露店の並びが、少しずつ形を取り戻している。砂壁の商店はなくとも、テントを張った露店が並んでいる。色艶やかな宝石の陳列はなくとも、色鮮やかな果実の実りが腹を空かせる。高価は飛び交わずとも、そこには復興の志を同じくする亜人たちの笑顔で満ちていた。


「――――まずまずだな。復興は順調ではあるが、やはり簡単に以前のようにはならんか」

「復興ていうのはそういうもんだ。一番の課題である「人の活気」が戻ってきているだけ上々だとも言える」

「いいや。私が太陽神より承った命は「完全な復興」である。それまでは満足して脚を止めることはできんのだ」

「真面目だねー。ま、オレの世話になっている間は手伝いくらいはしてやる」


 少しの高台から、復興の兆しの見えるテゲロを見下ろした青年たちが言葉を交わす。

 片やリザードマンの亜人たる青年リュージーンは、口角を吊り上げてテゲロの復興具合に満足している。

 片や鬼族の青年であり太陽神の腹心であるイルビスは、険しい表情のまま復興具合に及第点を下す。

 二人二様の感想を漏らし、2人の青年は今後の復興の指針について意見を交わした。

 チョウランへ向かうマリーを見送り、リュージーンとソフィはニシャサへ戻った。リュージーンは太陽神によりその頭脳と指揮能力を買われ、テゲロ復興の補佐を任されていた。ソフィは持ち前の機動力を生かしてテゲロと給水街を往復し、魔王軍との戦争へ向けた人員・物資の調達の一翼を担っていた。

 今日はテゲロの復興が始まってからちょうど一月が経過した目途であり、復興を指揮していたイルビスとリュージーンは一息を吐いていた。

 しかし2人の青年の会話は次第に熱を帯びていく。初めは忌憚なき意見交換で復興について語っていたはずなのだが、いつの間にか激しい口調での口論に変わっている。


「もし、イルビス様、少々よろしいですか?」

「どうしたフゥ?」


 リュージーンと激しい口論を交わしていたイルビスを、控えめな声が引き留めた。その声の主はリュージーンの傍仕えとして控えていた、ハーピィの少女フゥであった。

 熱くなっていたイルビスだが、そこはさすが太陽神の側近である。相手が変われば冷静さを取り戻し、抑揚のない声でフゥの方へ振り返った。

 フゥはリュージーンの傍仕えではあるが、やはりニシャサの一員である。リュージーンと同時にイルビスの補佐をしている彼女にはニシャサで発生した事態が収束し、特に一大事であればいの一番にイルビスへ報告するのだが――――、


「第10給水街より急ぎの伝令です」


 フゥは伝令より聞き伝えられた内容に動揺を隠せないようだった。

 その様子だけで一大事かと胸騒ぎを感じたイルビスであったが、落ち着き払った様子で続きを促す。

 フゥは荒立った息を整えて、冷静に伝令から受け取った情報を伝える。


「すいません。第10給水街より、『北の方角より不気味な暗雲あり。偵察の者より異形の怪物「ジャバウォック」なる者の大軍、その数500超。すなわち、敵襲かと思われる』とのことです――――!」

「「っ!?」」


 フゥの真に迫る言の葉に、2人は息を飲んだ。予想だにしていない敵襲に、想定外の大軍、そして太陽神不在という真実に戦慄が走った。

 目の前のフゥは太陽神の不在を知らない。フゥの眼差しには太陽神の出撃という希望が残っているが、この状況下で太陽神を充てにはできない。

 イルビスとリュージーンは同時に思考を走らせ、この場を不穏なく切り抜ける文句と敵軍に対抗する術を練り上げる。


「いいかフゥ、太陽神への報告は私が行う。

 そなたは第10給水街及び第9・第8給水街に撤退の命令を出せ。敵の怪物軍は第7給水街で迎撃の形をとる。砂漠での地の利がある我らの軍勢の守勢が有利と伝えよ」

「いいや、それじゃ駄目だ」

「リュージーン。外野の者が口を挟むな!」


 リュージーンにより指揮を即否定され、イルビスは青筋を立てた。

 しかしリュージーンは悪戯でもなく、真剣な表情でイルビスの顔を見上げる。その胸の奥に秘めた試案と策略を、オブラートに包むことなく言い放つ。


「敵のジャバウォックは飛行する。砂漠地帯での地の利はないと思え。それに、敵は500以上の大軍を差し向けたんだ。こちらも対空戦力のある砦で、防衛線を張るのが得策だと考えるが」

「それは、つまりテゲロで迎撃しろと言うのか? この復興の最中にある街を、再び戦場にするつもりか!?」


 イルビスは唾を飛ばして怒りを放つ。その言い分には確かな筋が通っており、目の前の平和そのもののテゲロを思う一心であった。

 もはや、フゥは口論に口論を重ねる2人を術を持っていない。

 緊急事態そっちのけで激しく言い合う2人を諫めるのは、立場が対等以上の者でないと不可能である。


「今は喧嘩をしている場合じゃありません! 口論より行動、です!」


 まさに適任とも言える人物が、口論する間に割って入った。

 その小柄な身体を捻じ込んで割って入ったのは、短い銀髪を汗に濡らしたソフィだった。ソフィは自分よりも大きい2人に身体をぶつけ、手癖で抜いた短剣を差し向けて脅迫、もとい説得を行った。


「今の防衛機能なら、第3給水街での迎撃も現実的です。あそこなら、最も大きい商業センターを仮砦として防衛戦線の維持が可能です」

「それだ!」

「では取り掛かるぞ。指示を急げ!」


 熱を帯びた2人は、第三者のソフィの言葉をすんなりと飲み込んだ。今までの口論など忘れたように、最適解に基づいて行動に移った。その眼中に、ソフィやフゥの気苦労などありはしない。


「……はぁ」

「ソフィさんも大変ですね」


 熱血指揮官の2人を横目に、2人のレディースは深い溜め息を吐いた。そしてやれやれと頭を振ると、気持ちを切り替える。ニシャサに迫っているという大軍に狙いを定め、大戦の影が動き出す。

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