表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
第6章「異世界大戦」編
260/369

戦線へ

 駆け出した道周は、まるで跳ね返る弾丸のように。蹴り倒した椅子が砕ける様など目にも留めず、いの一番に扉から外へ駆け出した。


「ちょっと待たれよ!」


 スカーが飛び出した道周を引き留めた。もちまえの健脚で道周に追い付くと、スカーの細腕からは想像もつかない怪力で肩を掴む。


「止めるなスカー。これはニシャサに迫る問題でもあるんだ。スカーが行かずして誰が行く!?」

「だからこそ落ち着けと言っておる。冷静さを欠けば、魔王軍()の思う壺だぞ」


 熱くなる道周を、至極冷静なスカーが説得する。スカーの手にはしっかりとした力が込められており、急く道周をきっちりと引き留める。


「いいかミチチカ。エヴァーは周囲を敵対勢力に囲まれ、恐らく兵力においても我ら同盟より劣っていると考えてよい。そんな敵方が逆転の目を賭けるのであれば、それは攻勢に転ずることだ。1度の奇襲から、こちらの連鎖的な瓦解を目論んでいるのなら、それに乗ってしまうことこそ悪手であろう?」

「ぐ……。

 それもそうだ。けど、そうだけど……!」


 道周はスカーの正論をよく理解した。その上で、正論ではやり過ごすことのできない感情論が、道周の畝の中で渦巻いていた。


「でも、このタイミングでの奇襲ってことは……」


 道周は言葉を濁らせる。道周が言わんとしたことを察したセーネが歩み寄る。


「僕が仕掛けた「罠」かもしれないからだね。この場に領主が集結することは、限られた人間しか知らない。そしてスカーが不在のニシャサに奇襲……。この好機は、内通者によって魔王軍に流れていたってことになる」

「そう……。そしてその情報を知らされていたのは、領主たちと限られた側近、そして魔女同盟の一部だけ……」


 道周は言葉を詰まらせた。俯いて「まさか」の事態に戦慄する。仲間を信用したいという気持ちと同時に、突き付けられた現状を整理する。

 しかし終始冷静なスカーは、道周の感情を踏まえた上で言葉を紡ぐ。


「だからこそ、其方は真実を確かめなけらばならない」

「……どういうことだ?」


 スカーの静謐な声音に当てられ、道周は次第に冷静さを取り戻す。そしてスカーの意図を案じ、首を傾げた。

 スカーは聞く耳を持った道周に一抹の安心感を覚え、鷲掴みにしていた手を解いた。


「よいかミチチカ、其方は(わらわ)(わらわ)と共にニシャサの戦線へ来い」

「それなら僕も行く」

「それは駄目だ」


 スカーの提案にセーネも挙手した。だが、スカーは即答で拒否した。

 セーネは豆鉄砲を喰らったように目を丸くする。


「よいかセーネ。其方はすぐにイクシラに戻れ。仮にイクシラに敵勢力が及んでおれば、夜王と共に迎撃せよ。そしてグランツアイクは獣帝が守護せよ」

「おうよ。おれがいる限り陥落することは絶対ないと思え」

「わ、わかった……。けど、イクシラの安全が確認でき次第加勢に行く。僕だって「魔女同盟」の一員だ。それくらいの権利はあるだろ?」

「もちろんだ。そのときは期待しておるぞ」


 スカーとセーネは静かに握手を交わす。そしてすでに旅立つ用意を終えている道周は、スカーの出発を待つのみである。


「さぁ、行くぞミチチカ。其方の力、存分に借りる故覚悟せよ」

「おう! いつでも行けるぞ!」


 スカーも用意を終える。そして火炎の権能を発現させ、黄金の熱翼で宙を舞う。


「全力で飛ぶ。振り落とされるでないぞ――――!」


 飛翔したスカーは道周を拾い上げる。細腕から発揮される相変わらずの怪力で道周を持ち上げ、目にも止まらぬ速度で駆け抜ける。

 西のグランツアイクから南のニシャサへ目掛け、空路で行くと旅路はおよそ数日。その道程をスカーが行くのならば、およそ数時間。半日もかからない間に、道周たちはニシャサに舞い戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ