表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
249/369

魔女と地龍

 地龍が語り出すは、現在より遡って200と余年前の出来事である。

 幻獣ごとに縄張りが決められ、それぞれの種族が閉ざされた世界で平穏を得ている中で、「魔女」という幻獣も例に漏れずに平穏の最中にいた。

 平和な生活の中で魔法の研鑽を重ねる魔女たちに、また1人新たな命が芽吹いた。新たな生を受けた魔女は「サリー」と名付けられ、魔女の歴史で「最後の魔女」と称せれる運命を背負う子であった。

 生まれたての赤子は時間を重ねる。少女の時代を経たサリーは、やがて1人の立派な女性になる。

 金髪金眼の美女になったサリーは、魔女たちの中でも一際際立つ美しさを有する女性になった。そして他の魔女と同様に魔法の研鑽を行い、サリーはとある魔法の才能を開花させていた。




「あらサリー。また石ころなんか拾ってきて、淑女のやることではなくてよ」

「言ってくれるね、シトリ。また宝石を頂戴なんて言われてもあげないよ」

「くれるのは、いつも魔法の付与には使えない小さいものばかりじゃないの。大きいものをくれるなら、今後「サリー様」って呼んであげてもよくてよ」

「私の研究テーマを知っていて言うのだから意地悪ね」


 サリーは幼馴染の魔女、シトリと軽口を交わす。

 サリーはポニーテールにまとめ上げた金髪をせっせと揺らして、拾い集めた鉱石を丁寧に磨く。すると鉱石の中からは色彩が現れる。

 シトリはそれが宝石の原石であることを理解し、恨めしそうな目で見詰める。

 サリーはシトリの視線を知りながら、その白い手で鉱石を磨き上げる。宝石に傷を付けぬように丁寧に磨くと、青藍の色艶が姿を現した。サリーは宝石を丸裸にすると、満足そうに微笑んだ。


「ねぇ、サリー。それ本当に実験に使うの? 今ならまだ別の用途に使えると思うのだけれど……」

「駄目だよ。この宝石には私の実験材料になってもらうの。もったいないとは言わせない……、よ!」


 もったいないとぼやくシトリを尻目に、サリーは青藍の宝石を両手で包み込んだ。宝石に息を吹きかけるように顔を寄せ、音にならない声で魔法を唱える。

 サリーの吐息と言の葉を身に受けた宝石は、不可思議な輝きを放つ。石のカットは光を乱反射させ、直視するに眩いほどの光を放った。その光は決して太陽光などの外的射光ではなく、宝石の内側から溢れ出るものだった。

 しばらくすると、青藍の宝石の光は鎮まった。原因不明の光は跡形もなく消失し、宝石は何事もなく元の姿を取り戻す。まるで奇跡、もしくは夢のような出来事だったが、


「よっしゃぁぁぁ! 大・成・功だぁぁぁ!」


 サリーは大歓喜の雄叫びを上げた。手を叩きガッツポーズを掲げて、金髪を振り解いて喜びを表現する。

 幼馴染たるシトリはサリーの何度目かの狂喜乱舞に呆れ返り、同時に観念して拍手した。


「おめでとうサリー。また1つ魔法の研鑽を重ねたのね」

「そうよシトリ。見て見てこの宝石。ただの石だったのに、今や「()()()()()()()()」、言うなれば「魔石」だよ。

 これを加工して、もっと使いやすいようにするの」


 そういったサリーは、掲げた魔石を振り回す。すると魔石からは火の粉が飛び散り、あがて一つの火球を生み出した。

 サリーは暴発した火球を手早く消火し、爛々と瞳を輝かせる。その胸には確かな手応えと充足感を覚えて小躍りする。


 そう。サリーが研究する魔法とは、「物質に魔法を与える・蓄積する」魔法であった。魔女やエルフ、他の魔法を使う才能を持たない者でも魔法が使えるように。というサリーの悲願が、また一歩成就へ近付いたのだ。

 サリーは悲願を達成させるために研鑽と研究を重ねる。魔法を誇りとする魔女にあるまじき研究だが、それをとがめる同胞はいない。誰が何の魔法を極めようと、魔法が高みを目指すことは魔女全体にとってのプラスなのだ。

 魔女の中でも異質な魔女サリーの噂は、当時の知立の耳にも届いた。地龍はサリーと何度も面会し、交流を重ねる。

 魔女と地龍の間には、年齢を超えた友情が育まれた。1人と1頭は互いを信じ心の内を打ち明ける。秘密も夢も全てを明かし、友情は時間を経ても朽ちることはない。

 しかし、不変の関係性などこの世に皆無。諸行無常とはよく言ったもので、魔女という種族は崩壊の兆しを迎えた。


 現在より、約170年前の出来事。魔女という種族は絶滅する――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ