道なき道
「突撃するよ、ユゥ!」
「任されました。マリーの行く道は、私が駆け抜けましょう!」
マリーとユゥの間に作戦会議は不要だった。マリーが何に勝機を見出し、どういう道筋を描いているのか。それはユゥですら知り得ないことではあるが、マリーの高らかな声を聞き届けると詮索など無粋であると知っている。
ユゥは、数々の「試練」乗り越えてきたマリーの声を一番近くで聞き届けてきたのだ。マリーの高らかな号令に絶対的な信頼を寄せるユゥは、迷うことなく一心不乱に空を疾走した。
「力の差を目の当たりにしても向かってくるか。その蛮勇、撃ち落としてくれよう!
ぉぉぉ雄々々々――――!!」
自身に満ち溢れたマリーたちを眼前に見据え、ドラグノートは一層猛り吼えた。後退ばかりをしていた相手の特攻には恐るべき爆発力が内在する。そのことを「挑戦される側」として理解しているドラグノートは、マリーたちの突撃を警戒して権能の全権を躊躇なく発揮した。
ドラグノートの紅蓮の巨躯から、「神成」と称される赤い雷が拡散し、突撃してくるマリーたちを迎撃する。無論「神成」の猛威は360度の全方位を焼いて割いて裂いて粉砕する。
「マリー、防御は任せました」
「もち! ユゥはそのまま直進!」
呼吸と足並みを揃えた1人と1頭は恐れることをしない。恐れがないわけではないのだが、それ以上に前に進む理由と信頼があった。
マリーは愛用の杖を振り下ろし、前方へ向けて青雷を放電する。獣帝ことバルバボッサの権能を模した雷は、弾けて迸り、正面から赤雷に喰らい付く。
青と赤の雷は衝突し、互いの熱量を以ってして相手を上回らんと高威力でせめぎ合う。
埒外の雷が拮抗する間を縫って、ユゥは高速で駆け巡る。その足取りに躊躇いはなく、自爆特攻にも思える疾走は速度を上げた。
「破っ!」
ドラグノートは次手として絶対零度の光線を放つ。紅蓮の龍角に湛えた超低温を集中させ、狙い定めて精緻な一撃を放出した。
「ユゥ」
「えぇ。止まりませんので!」
ユゥは止まらない。止まるどころか、自慢の一角を突き出して風を切り裂く。マリーに全幅の信頼を寄せているからこそ、恐れを乗り越えて「挑戦する側」としての矜持を掲げるのだ。
もちろんマリーもユゥの信頼に応えるように頭を振り上げる。その左手を掲げ光球を生成すると、絶対零度の光線に目掛けて渾身の一発を撃ち出した。
ドラグノートが繰り返す超常の連撃に対し、マリーも同等の連撃で迎撃する。決して楽ではない一撃一撃は、どの一撃を取ってみても外すことが命取りな一撃である。精神的な負荷も大きい迎撃を見事に炸裂させて、見事絶対零度の光線を撃墜した。
研磨と誇りの結晶である権能の2連撃を回避されてなお、ドラグノートに焦りはない。ドラグノートが持つ選択肢は「神成」と「超低温」の2つだけではない。超高温の業火と、依然破られていない身体能力でのごり押し、さらには使い方を変えて権能を奮えば攻め手など無限に編み出せるのだ。
ドラグノートの余裕はそんな自信から来るものであり、「挑戦される側」としての誇りが凛然たる姿勢の象徴であった。
刹那、ドラグノートの顔色が変わる。
自棄になった最後の特攻を仕掛けるマリーたちを、睨み付けて顎を上げていた。必然的に見上げる形になった視界は、赤雷と青雷の衝突で眩い閃光で覆い隠された。そして絶対零度の光線と光球がぶつかり爆ぜる爆炎と白煙の中から、その目を凝らしてマリーたちを発見した。
ドラグノートの視界は、上方に意図的に狭められていたのだ。故に、下方への意識が粗末になっていた。
ドラグノートの足元には誰がいたのか。誰が何を有し、ていたのか。
ドラグノートの意識外からの攻撃が、マリーが賭けた逆転への光明である。




