困難の形
「え!? ちょ、ちょっと待って。私が、ミチーナの翼を……」
「えぇ。その手でもぐんです。覚悟はできてるんでしょう?」
「で、でも……」
ミチーナが突き付けた「試練」に、マリーは明らかに狼狽していた。
「さ、どうしましたか? はよぅあんたの覚悟を示してぇな。できてるんでしょう、覚悟」
ミチーナは容赦なくマリーに迫る。その美麗で純白な体躯に、整ったバランスを保つ翼を差し出す。その美しく精鍛な翼を、マリーの手で「もげ」と言っている。
マリーは混乱し狼狽えた。
ミチーナが差し出した翼と言えば、天馬たるペガサスの象徴である。翼がないペガサスは天馬ではない。グリフォンやヒッポカンパスたちが重きを置いた「誇り」そのものである翼をもぐということの意味はとてつもなく重たい。
そしてマリーは、その意味を十分に承知している。だからこそ、ミチーナの「試練」の意味が分からない。
「どうしてこんな「試練」を出すの?」
「どうして? その質問に意味があります? あんたができないって言うなら、それがあんたの答えになるんやけど大丈夫かい?」
「そ、それは……」
マリーはミチーナの手厳しい言葉に言葉を詰まらせた。マリーはヒッポカンパスの「試練」で深く考えることを経験したが、早急に答えを求められることは慣れていない。
「貴方、確か「試練」を知っているって言っていましたよね?」
「うむ。確かにそう言ったし、その言葉に間違いはない。我はペガサスの「試練」の内容を知っていたし、きょじんの「試練」も知っている」
「だとしたら、余りにも酷なことをするのですね」
「挑む前から「試練」の内容を知るのは野暮なのだろう。これは貴様が言った言葉だ。
それに、マリーには弱点が多すぎる。特に中途半端な優しさは決定的な弱点だ」
「だから酷だと言っているのですよ」
ユゥとガウロンは、マリーの挑戦の様子を端から見守り言葉を交わしていた。
「試練」を出す側の幻獣であるユゥは、ミチーナが提示した「試練」の真意に勘付いていた。ガウロンに至っては、ペガサスの象徴である「翼をもぐ」という「試練」の真意を知っている。
後はマリーが、この「試練」に込められた真意と仕掛けに気が付くことができるかどうかに掛かっている。
ユゥとガウロンが口出しをすることはできない。それをしてしまえば、この「試練」の意味がない。
マリーはユゥとガウロンの熱視線を背中に受け、未だに「試練」に苦戦していた。
ミチーナは冷酷にも翼を差し出して、マリーに選択を迫る。
「さぁマリー。早くやりなさい」
ミチーナは選択を迫る。まるでマリーに考える時間を与えないように、その思考を妨害しているようだった。
「さぁ」
「待って」
「さぁ!」
「待っ――――」
「早く!」
ミチーナのせっつかされ、マリーは決断した。ミチーナが差し出す純白の翼に手をかけて、力を込める。
「ペガサスの翼をもぐ」という「試練」に、マリーは一つの答えを下す。




