表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
214/369

違う朝

 マリーが「試練」を突破する打開策を獲得してから一夜が明けた。

 清々しい朝に爽快な思いを掲げ、マリーの顔付きは一層精悍に見える。

 ユゥはマリーの表情を窺い、何か今までと違う緊張感に背筋を伸ばした。


「今日はいつになく気合いが入っていますね」

「まぁね。今日こそは「試練」、突破させてもらうよ!」

「いい心意気です。では、始めますか?」

「もちろん!」


 意気込んだマリーは、颯爽とユゥの背中に跨った。この数日繰り返してきた行動に一切の淀みはない。

 マリーの重みを背中に感じ、ユゥは嘶いた。そして二度、蹄を鳴らして疾走を開始する。

 ゼロから一気に上がる速力を、マリーは身体強化の魔法で堪えた。


{くぅぅ――――」


 マリーは今まで通りの手法でユゥの駆け出しを堪える。前方から迫る風圧は身体を巻き上げるほどに強烈ではあるが、これでも未だに助走の段階である。本気の「ほ」の字も出していない。

 ユゥは調子を上げて、さらにスロットルを開く。助走からさらに速度を上げて、いよいよマリーを振り落とすほどの加速が乗った。


「ぅぅぅ――――」


 マリーはまだまだ堪える。身体強化でユゥの背中にしがみつき、風圧とG(重力)に歯向かう。

 ユゥはマリーを振り落とすために老獪に手段を講じる。加速に加えて減速を織り交ぜ、しがみつくマリーへ負荷をかける。さらには霊峰を大回りする道筋を辿り、遠心力を加えて本格的にマリーにプレッシャーを与える。

 そのとだった。今までならばマリーはここで振り落とされていた。しかし、マリーに秘策あり。マリーは満を持して秘策を使用する。


「今だぁぁぁ!」

「っ、これは!?」


 マリーの雄叫びと同時に、ユゥの身体に不思議な違和感がまとわりつく。それはマリーとユゥの身体を縛り付けるものであり、真の意味で1人と1頭の身体は完全に密着した。

 マリーが用意した秘策とは、とどのつまり力業であった。魔法で身体を縛り付け、物理的に離れることがないように拘束する。


「騎乗する「試練」でこれはギリギリアウトかもしれないけど、是非もないよね。使える手段を何でも使っていいんだから、文句は言わせないよ!」


 マリーはしてやったりの高揚感に包まれて高らかに宣言する。

 対するユゥに興が乗ってきたのか、昂った声音で反駁する。


「文句などとんでもありません。「試練」とは己の全てを出し尽くして威を示すもの。そこに割って入るものは、実力以外の何物でもありません。それはひねくれていようとも、叡智も実力なのです!

 だからこそ、マリーこそ文句はなしですよ」


 同時にユゥは満足そうに微笑んだ。

 その裏のある笑みに疑問符を浮かべるよりも早く、ユゥも秘策を投じた。


「では、本気で行きます――――!」

「あぇっ!?」


 ユゥの本気宣言と同時に、マリーとユゥを縛り付ける拘束が解かれた。1人と1頭を括りつけていたものは空中を揺蕩い、空ぶって虚空に消える。

 ユゥは実体を持つ一角獣の姿を失い、一陣の疾風と化していた。比喩ではなく、ユゥの身体は実体のない風になり、空を穿つ一振りの槍にも変化する。

 無論、騎乗しているマリーの身体は宙に放り出され、慣性のままに飛来した。


「ちょっと、実体がなくなるとか聞いてないんですけど!?」

『これも私の実力の内です。これを乗り越えてこそ、「試練」を突破したと言えましょう』

「もう「騎乗」関係ないじゃん!

 ……って、私も文句言えないんだけど」


 しかしマリーは諦めない。空を舞う身体を飛翔の魔法で立て直す。まだ地面に脚を付いておらず、「試練」は終わっていない。

 マリーは秘策を披露して後には退けない。この挑戦で「試練」を乗り越えなければ、マリーの勝利は大きく遠のいてしまうだろう。

 マリーはこの挑戦を負けられない戦いと位置づけ、ぶっつけ本番で大技を繰り出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ