打開策
「――――ったぁ、ダメだ! もう全身が痛い!」
「では、今日の「試練」も全て私の勝利ということで」
「うぅ……。全然クリアできるイメージができない……」
チョウランの日の入りは早い。天まで聳える連峰に陽の光が差し込む時間は長くない。夕刻なのだろうが、辺りはすでに夜の闇に包まれている。すでに四方を失うくらいには暗く、これ以上の「試練」継続は命の危険が伴う。
1人と1頭が繰り返す「試練」は、本日のところは打ち切りとなった。
マリーがユゥの「試練」に挑戦してから、早5日が経過した。1日平均5度の挑戦をしているものの、クリアの気配どころか、ユゥの顔色を渋くさせることすらできていない。
マリーが拵えた秘策こと、魔法による身体強化でさえユゥの疾走には耐えられなかった。
マリーが「試練」に挑戦した初日に魔法による身体強化を試した。のだが、そんな小手先の業では容易く振り落とされるのが落ちであった。その後もマリーは魔法の強度を上げたが、ユゥの加減速による過負荷には耐えることができなかった。さらには、急カーブによる遠心力により、霊峰から霊峰にまで吹き飛ばされたという苦い経験がある。
この数日の「試練」はマリーの全戦全敗だ。マリーの華奢な身体には鞭打ち打撲痕など、見るも無残な傷痕が刻まれていた。
この傷痕は挑戦の証とも言えよう。そして、この傷程度でマリーは折れない。
マリーは明日もユゥの「試練」に挑む。ユゥに認められずして、他の幻獣たちの協力を得ることは不可能であろう。
(うーん。この「試練」、絶対に突破が不可能ってわけじゃなさそうなんだけどな。乗りこなすイメージができないな)
マリーは魔女たちの遺跡にて夜を過ごす。風化のないふかふかのベッドの中で、マリーは「試練」突破のために思考を張り巡らせていた。
身体は疲労感に襲われ休息を求めているが、頭が冴えて仕方がない。このままでは永遠に敗け続ける「試練」を前に、マリーが焦りを抱いているのも事実だ。
(使える手段の全てを使って挑む「試練」か。これがヒントな気がするんだけど……)
マリーは考える。だが、一行に打開策は思い浮かばない。今までの手法で挑み続けても埒が明かない挑戦に、何か穴を穿つ秘策が必要だ。
マリーは己が持つ手札を今一度思い返す。
マリーがユゥの「試練」を突破するための最大のカードは魔法だ。魔法を以ってユニコーンという幻獣に対して勇気と叡智を示すこと。
そのために、マリーはイメージする。イマジネーションこそが魔法の源だというラブの言葉を思い返す。
魔法のイメージで、勝利のイメージを。どれだけ頭を捻っても思いつかないそれを、マリーは考え続ける。
(私がユゥの「試練」を突破するイメージか……。
うーん、「私がユゥを乗りこなす」イメージ……。
もしかして……)
マリーに妙案が浮かび上がる。
ユゥの「試練」を突破するための、最大のカードをマリーは手に入れた。
あとはこのカードを切ることができるか、果たしてユゥに通じるかどうかの問題だ。
マリーは胸に希望を秘めて、深い眠りに落ちていった。




