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放つは魔剣、迎えるは黒剣 3

「がっ--------!?」


 テンバーとの死闘の最中、決死の攻勢に転じたはずの道周が宙を舞った。

 道周は3メートルほど打ち上げられ、空中で静止したような錯覚を覚える。その視界で捉えたテンバーは竜の翼を広げていた。


(翼で打たれたか! そんな手もあるとか竜人くそだな!)


 道周は内心で毒を吐いているが地面に真っ逆さま。地面に叩き付けられバウンドする身体。それでも膝と手をを着きすぐさま体勢を整えた。

 だが強い衝撃を背中で受け止めた道周は面を下げうつ伏せる。


 これほどの高さから落下しても道周が意識を保っていられるのは、左手首に嵌められた群青色のガントレットが大きな役割を果たしている。

 群青色のガントレットは1度目の異世界転生において、道周の冒険の一助となった超便利アイテムだ。

 性能の一つに魔剣などを収納する魔法がある。バッグを背負うよりも多くの物資を身軽に持ち歩くことができるのだ。

 そしてもう一つの性能として「衝撃緩和の加護」がある。剣や牙爪などの斬撃に対する防御力は皆無だが、打撃や炎熱といった攻撃のダメージを低減させる。


「くっ……、がはぁ……!」


 しかしいくらガントレットの加護があったとしても、打ち続けられれば響くものがある。

 吐血を無理矢理飲み込む道周だが、堪えきれずに鼻から血液が溢れた。


「前だ異世界人、避けろ!」

「っ!?」


 焦燥に満ちた叫びはリュージーンはよるものだった。

 リュージーンの慌てように道周は急いで顔を上げる。

 眼前には絨毯のように地を這う火炎の波があった。


「ナイスだリュージーン!」


 身に鞭を打ち奮い起つ道周は、立ち上がり様に魔剣を振り上げる。

 「神秘を絶つ魔剣」は異名の通り、竜人の橙角が織り成す火炎を真っ二つに切り裂いた。


「まだまだ行くぞ」

「この……、放火魔が……!」


 テンバーは威勢よく超低空火炎放射を続ける。竜角の特徴である「火炎の操作」という異能が文字通り火を吹いた。

 悪態と苦々しい笑みを浮かべる道周は癖の強い足下への火炎を斬り続ける。


 「侵略すること火の如し」


 風林火山の一節を想起する道周は、武田の教訓を呪わずにはいられなかった。

 道周はテンバーの追撃を辛くも裂きながら確実に歩を進める。

 「()()()」を持つ道周は、確実に決まる射程を目指して息巻いて前進する。


「このまま『海をまっぷたつにさいて紅海を渡ったっつうモーゼ』のように、この火炎を突破してお前をブッたたいてやる」

「再び立ち向かうか。ならば次こそ二つに断割してやろう……!」


 必死に前進する道周を、テンバーは鼻先で一笑した。

 火炎の手は緩めることなく、テンバーはおもむろに黒剣を掲げ振り下ろした。


 それは「合図」である。


「しまった……!?」


 道周がテンバーの挙動の意味に気が付いたときには手遅れであった。

 道周が周囲を見渡すと、囲むように隊列を組む魔王軍の兵士たち。

 魔王直轄の特務部隊は竜角に火炎を蓄える。

 そして関所の守衛たちは鏃の付いた矢を弓につがえ、ある者はブルーサファイアの宝玉が嵌め込まれたステッキを構える。


「慈悲はない……、放てぇっ!」


「「「雄々々々!!」」」


 竜人騎士と守衛の怒号が重なり大合唱となる。

 関所を揺らすほどの号令とともに、各々が道周へ目掛けて遠距離攻撃を繰り出す。

 特務部隊はありったけの火炎弾を放出する。

 弓兵たちは天へ矢を放ち、角度を付けた放射状の攻撃を行った。

 宝石を嵌めたステッキからは勢いよく光の弾丸が撃ち出された。

 ステッキから射撃されたのは「光弾」の魔法。初歩的ながら強力な遠距離魔法は、ステッキに嵌められた宝石に籠められた能力である。


 道周は四方八方から迫り来る攻撃に対し、しぶとく魔剣を振るい撃墜を試みる。


「くっ!」


 足下に迫るテンバーの絨毯火炎を振り払い、


「そっ!」


 前方を埋め尽くす火炎の弾幕を切り裂いて、


「がっ!」


 振り向き様に挟撃する光弾の魔法を散らした。

 しかし抵抗もここまで。

 余りにも多い物量を単独で突破することは叶わず、降り注ぐ鏃の雨に肌を裂かれた。


「いっ、つ……っ!」


 道周は歯を食い縛るが次々と突き刺さる鋭利な痛みに苦悶の声を漏らす。

 道周への攻撃の手は止まない。

 竜人たちは阿吽の呼吸で火炎弾を生成する。

 魔法のステッキを掲げた守衛たちも、ブルーサファイアの宝石に光を蓄えている。

 後はテンバーの号令に合わせ攻撃を放つだけとなった魔王軍は勝利を確信していた。

 対する道周に体力は残されていない。膝に手を着いて干からびる寸前の身体はやっと思いで立っている。


(ここまでか……。

 マリーは逃げ切れたか。ソフィ、力になれなくて済まない)


 諦めを悟った道周は瞳を閉じ、瞼の裏に2人の顔を思い浮かべる。

 走馬灯にも似たマリーの表情は快活と笑っており、ソフィは涼しくも優しい顔をしている。

 鋭敏になる道周の聴覚に、テンバーが深く息を吸い込む音が届いた。


「総員、放」


 ズゥゥゥン--------。


 テンバーの号令を掻き消す爆音が轟いた。

「放つは魔剣、迎えるは黒剣 4」に続く

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