魔境を覗く
「貴女もそうですが、「魔女」という種族も分類は「幻獣」に当たります」
「らしいね。私自身、そんな自覚は全くないけど」
「それはそうです。あくまで分類の話ですから。
話に戻りますが、幻獣である魔女たちも、かつてチョウランに群れを作り、集団生活をしていたそうです」
ユニコーンの含みのある言い方に、マリーは眉をひそめ足を止めた。想定しうる最悪の答えを予想しながらも、恐る恐る尋ねる。
「その言い方だとまるで、「今はない」って風に聞こえるんだけど」
「そうです。現在、チョウランに魔女たちの住処はありません。この領域から、「魔女」という幻獣は絶滅したのです」
「そんな……」
同じ魔女と呼ばれる者が1人もいないという現実は衝撃的であった。たとえマリーに魔女としての帰属意識がなくとも、心を掴まれるような気持に陥る。
しかしここで、マリーの脳裏を1人の人物が過った。
「でも、アイリーンも魔女じゃないの? 彼女はチョウランの出身じゃないの?」
「その名前を知っているのですか!?」
マリーの何気ない呟きに対して、ユニコーンは大仰に驚いてみせた。それは決してわざとらしいものではなく、心の底から自然に飛び出たものだった。
マリーは冷静沈着なユニコーンの取り乱す様に戸惑いながらも、落ち着いて返答する。
「知っているも何も、会ったよ。そして戦った。アイリーンは魔王軍の幹部の魔女だよ」
「そう、なのですか……。そんなことを地龍様がお知りになれば、さぞかし悲しまれることでしょう」
「アイリーンって、何かマズいの?」
ユニコーンの憂鬱に沈む表情を見て、マリーは肝を冷やした。何の気になしに放った一言が、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったのかと鼓動が跳ね上がる。
ユニコーンは視線を伏して戸惑いを見せるが、最後は思い切りに任せて口火を切った。
「マズいも何も、アイリーンこそが魔女の一族を滅亡に追い込んだ張本人なのです」
「っ!?」
想像していた答えよりも飛び抜けた回答に、マリーは言葉を詰まらせた。しかし先行するユニコーンに追い付いて、真横に立って問い掛ける。
「その話、詳しく聞かせてくれるんだよね?」
「もちろんです。
ただ、聞くだけの覚悟はしてください。この話から得られる答えが、貴女にいい結果のみをもたらすとは考えないでください」
「いいよ、話して。ここまで来て聞かないなんてありえない」
マリーは即答した。それは決して自棄でもなく、強引に気持ちを切り替えたわけでもない。どこかで繋がっているかもしてない自分自身の正体を突き止めるために、前のめりに真実へ近付く覚悟を持っていた。
「そうですか……、では――――」
マリーの覚悟を受けたユニコーンは、決してそれを無為にはしない。いや、きっと「この魔女ならば受け入れる覚悟を持つだろう」という予感はあったのだ。
だからこそ、マリーをこの場所へ誘った。
ユニコーンが伏していた眼差しを上げる。そして歩みを止めると、並行するマリーも同じ行動ウを取った。
そしてマリーが目の当たりにした光景は、刺々しい幻獣の大地に似つかない人の営みの跡であった。




