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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
203/369

一角の雄

「ユニコーン!!」


 マリーは嬉々としてその名を叫んだ。

 マリーが育った日本で、1・2を争うほど有名な幻獣である。童話の中でも、フィクションの中でも頻出の有角の馬こそがユニコーンである。同じ馬の有翼の幻獣「ペガサス」と同様に、夜空に星座として祀られた一角獣である。

 マリーが「幻獣の領域」と耳にしたとき、真っ先に連想したのがこのユニコーンである。内心で出会うことを焦がれた幻獣に出会ったのである。

 それも、数いるであろうユニコーンの中でも、恐らく上級に美しい体躯を誇る個体である。紳士的な口調に振る舞いに、こちらの言葉を聞き入れる冷静さ。

 これこそ、マリーがイメージしたユニコーン像の結晶である!


「…………はぁ」


 感極まったマリーは、無意識のうちに溜め息を溢した。


「失礼ながら、お嬢様方の事情は聴いておりました。盗み聞きのような振る舞いをご容赦していただきたい」

「とんでもないよ! 私は領域の幻獣全員を説得するつもりだから、何度も同じ話をする手間が省けたようなものだし」

「その寛大な処置に感謝を」


 そう言ったユニコーンは、恭しく頭を垂れた。

 紳士的かつ思慮深い、一周回って遠慮の塊であるユニコーンに、マリーは慌てて言葉を続ける。


「そんなに畏まられても困るよ。ここは互いにフランクにいこう。私もそっちの方がやりやすいし」

「承知しました。

 して、今度は私たちの事情を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろん! この領域は、聞いていた話と違う感じがする……」


 同盟の参謀であるリュージーンも異世界転生経験者の道周もいない。この場にはマリーただ1人だ。マリーは異世界に転生して初めて、最初から最後まで自分で考えて決断し行動することを迫られている。

 マリーはグリフォンとユニコーンから情報を引き出し、慎重に精査して決断を下す必要がある。

 グリフォンとユニコーンの会話から、チョウランでは一部の幻獣同士での対立構造が出来上がっているとマリーは考える。

 その推理が正しいとして、マリーが次に考えるべきことは、「どちら側に付くか?」である。

 今までのマリーならば、両者の溝を埋めて喧嘩両成敗を計っていただろう。

 しかし、現在のマリーは魔女同盟の代表であり、唯一の使いだ。感情論を抜きにして、問題解決のための最適解を探ることに重点を置いていた。


「この領域の現状を聞かせてほしい。特に、「本当に地龍さんは死んでいるのか?」ってこととか」

「もちろん、貴女には嘘偽りのない真実をお話しましょう。それを信じるかどうかは、貴女次第にはなりますが」

「う、うん……」


 ユニコーンの言葉に、マリーは固唾を飲んだ。

 ユニコーンは恐らく、マリーの思考を読み切っている。マリーの事情を知っているということは、そこからマリーの置かれた状況と、そこから生まれる発想を推察できるということだ。

 そのことを完全に失念していたマリーは、情報優位を取られたと内心で舌打ちをした。それでも、もう後には引けない。マリーは腹を括ってユニコーンの話に耳を傾けた。


「では、少し長くなりますが――――」


 ユニコーンの丁寧な前置きに、マリーは首肯で答える。

 満を持して、ユニコーンは本題を切り出し


「の、前に。付いて来ていただけますか?」

「ど――――!」


 さんざんもったいぶったユニコーンは、まだ話を先送りにした。

 マリーは思わずずっこけ、涼し気な顔のユニコーンに突っ込みを入れる。


「ここじゃ駄目なの?」

「確かにここで話してしまうことは簡単です。しかし、貴女の疑問に答えるためにも、是非とも付いて来てほしいのです」

「一体どこに行くの?」



 グリフォンの前例もある。マリーは疑い深く行先を尋ね、ユニコーンの挙動に身構える。

 ユニコーンはマリーの疑念を察して、早急かつ簡潔に回答を提示した。


「地龍様のところです」

「っ――――!?」

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