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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
201/369

矜持の問答

 一方で、グリフォンに攫われたマリーはどうなったかと言うと――――、


「さぁ、貴様はここで降りよ」

「うっ!」


 天を衝く連峰を超えた先、灰色の岩盤が剥き出しになった山岳の中腹で、地面に落とされていた。


「いたた……。ちょっと、もう少し丁寧に扱いなさいよ!」

「喧しい娘よ。魔女ならば、これくらい己の手で堪えてみせよ」

「私は武闘派じゃないの。無茶言わないで」


 マリーは砂埃を払うと、立ち上がってグリフォンと対峙した。

 改めてグリフォンと向かい合うと、この幻獣中々に大きい。上背はマリーよりも頭一つ大きく、体躯は太くずっしりとしている。その胴に腕を回したところで、手と手が繋がることは到底ないだろう。

 首から上は猛禽類の王である鷹、下は百獣の王たる獅子という、グリフォンの聞きしに勝る幻獣っぷりにに、マリーは改めて息を飲んだ。

 グリフォンは圧倒されているマリーを見下ろし、相変わらずの高慢さを滲み出させて言葉をかける。


「さて、貴様は我らに「話がある」と申した訳だが、それは真か?」

「そうだよ。私たち「魔女同盟」は、チョウランの領主さんに話があるの」

「我らの領主は地龍様のみだ。だが、その地龍様はもはや存在しない。それでもか?」

「その話なんだけど、本当に地龍さんは死んだの?」

「たわけ! 地龍様を「さん」付けなど図が高いわ!」


 マリーの失言に対し、グリフォンは声を荒らげてがなり立てた。

 このやり取りにも慣れつつあるマリーは、耳を塞いでグリフォンの落雷をやり過ごす。


「……それで、本当の話なの?」

「無論、我が偽りを言う訳がなかろう。

 ……して、貴様は如何する?」


 グリフォンは鋭い鷹の目を細め、荘厳な声で問い掛ける。

 マリーはグリフォンの威圧感に改めて気圧されつつも、退いてはいられないと己を鼓舞する。怯んだ弱腰に鞭を打ち、気丈に顔を上げた。


「それでも、私は話がしたい。あなたたち幻獣と分かり合うことをしたい。そして、力を貸して欲しい」

「ほぅ……」


 マリーの真剣な面持ちに、グリフォンは心外そうな顔をした。今までころころと移ろう表情を浮かべていたマリーの決意を抱いた顔付きに、僅かながらに興味を抱く。


「ならば、聞いてやろう」


 グリフォンは魔女の薫りを漂わせるマリーを同等を認め、その言の葉に耳を傾ける。ここにきてようやくやっと、グリフォンが歩み寄りを見せた。

 マリーは決死の決心を抱く。ここでグリフォンの琴線に触れれば、一触即発の戦闘に入るだろう。

 それだけマリーが実力を備え、多種多様な魔法を扱えるようになれど、戦闘経験が圧倒的に低い。マリーとグリフォンの戦闘になれば、恐らくマリーがグリフォンに勝利する確率は、敗北する確率より低いだろう。

 マリーは慎重に言葉を選ぶ。一言一句に気を配りながら、マリーと道周が辿ってきた異世界転生の旅路を語る。そこから枝葉のように伸びるフロンティア大陸での冒険を語り、魔女同盟について力説した。


 ――――魔王を倒すための同盟を作る。

 現状、「四大領域」の内、チョウラン以外の3つの領域が同盟の参加を表明した。

 そして、かつて大陸を裏切った勇者マサキが死んだこと。

 魔王軍との最終決戦が確実に近づいている今、チョウランの、幻獣たちの協力が不可欠であること――――。


 これらの全てを語り尽くした。マリーは熱を込め、真心を込め、グリフォンに訴えかけた。

 グリフォンは、語るマリーを真剣な眼差しで見詰める。真摯に耳を傾け、その話が終わると大きく頷いた。


「なるほど。貴様らの言い分も、その背景も理解した」

「だったら――――」


 「協力してくれる?」とマリーが尋ねる前に、グリフォンは答えを返した。


「我らと対等に戦うと言うのならば、まずは貴様の力を示してもらおう」


 グリフォンの瞳が怪しく光った。これまでの誇りに満ちた輝きとは打って変わって、グリフォンが孕んだ眼光には怪しさが宿る。

 マリーは生唾を飲んで冷汗をかいた。神妙な緊張感につままれながらも、覚悟を決めて首肯する。

 腹に企みを抱えたグリフォンは、口角を吊り上げて言葉を紡いだ。


「貴様に試練を与え――――」


 グリフォンが宣言を上げる刹那、一陣の疾風がマリーを覆った。

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