見送る者たち
灰色の切り立った連峰の向こうに夕日が沈んだ。チョウランへの侵入を阻む天然の城砦と、グリフォンが残した不可視の層により、道周たち魔女同盟は足踏みをしていた。
物理的に超えられない断崖絶壁に、グリフォンがこしらえた不可視の壁。
第一の断崖絶壁はセーネの翼で超えられる。気圧差の層は魔剣の異能さえあれば超えられた。しかし、今の道周たちに二重の壁を突破する術はない。
「すまない。僕の力不足でマリーが連れて行かれてしまった」
「セーネの責任じゃない、俺たちは見ていることしかできなかった」
「ですです。あの場でセーネが食い下がってくれたおかげです」
「ありがとう。そう言ってもらえると心が救われる」
「残された俺たちは俺たちで、やれることをするしかねぇ。ただ待つだけじゃ、吉報を持って帰ってきたマリーに合わせる顔がない」
「そうだね、リュージーンの言う通りだ」
リュージーンの提案に一同が賛同した。
グリフォンに連れて行かれたマリーの心配は積もり積もって仕方がない。しかし、ここで足踏みだけをしてはいられない。
「でも、どうしてマリーだけ連れて行かれたんだ?」
道周が些細な疑問を口にした。改めて考えてみると、魔女同盟の中からマリーが選ばれた理由に納得がいかない。
「マリーは魔女だ。そして「魔女」という種族は、元来「幻獣」なんだよ。その出生は、このチョウランにあると言われている」
「だから幻獣だけの領域に入ることを認められたのか……」
「だからこそ、僕たちは同盟に参加した領域間の調整をしよう。ニシャサの復興だってまだ完全じゃないし、できることはたくさんある。
ソフィとリュージーンはニシャサの復興の手伝いを頼む。彼らの復興無くしては戦力強化は見込めない。
僕はイクシラに戻り同盟の段取りをする。ミチチカはグランツアイクに行って、バルボーたちと調整を頼む」
「おう」
「分かりました」
「了解」
セーネは自然と人員の分担をした。その分担には、ソフィとリュージーンを一緒にするという作為的なものを感じるが、ソフィたちは自然に受け入れる。もちろんリュージーンも異を唱えることなく了承した。
「――――と、いうことだ。申し訳ないけど、帰るのなら一緒に頼めるか?」
話をまとめたリュージーンは、後ろで控えるイルビスに振り返った。
イルビスはグリフォンとの戦闘時から静観し、ことの成り行きを見守っていた。「チョウランまで連れて行く」というスカーの命であったが、形半ばで達成したことになる。裏を返せば、マリーを除く4人をチョウランまで届けることができなかった。
生真面目なイルビスは半端に命を達成した責任感から、リュージーンの頼みを了承した。
「では、一度皆さんでテゲロに戻りましょう。馬車に乗ってください」
イルビスは4人を馬車に案内した。全員が乗り込んだことを確認すると、早速手綱を打ってギュウシを始動させる。
一同はチョウランの大地を後方に眺め、どんどんと距離を離して行った。
(マリー。どうか無事に戻って来てくれ……)
天を衝く灰色の山岳を背に、道周たちは祈ることしかできなかった。
道周たちは道周たちの戦場へ、そして、マリーはマリーの戦場へ赴いた。
この先に待つ結果は、まだ誰も分からない――――。