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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
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試練の始まり

「地龍は、ロン爺はすでに死去しているというのかい!?」

「黙れい! 今さらのこのこと現れた白夜王め。貴様は決してチョウランの土地を踏めぬと思え!」

「駄目だ、全く聞く耳を持ってくれない……」


 怒りにも似た、それでいて恨みにも似た、そんな混濁した刺々しい瞳でグリフォンはセーネを捉えている。

 過去の禍根を全て飲み下し消化した上で、グリフォンは魔女同盟の前に、セーネの前に立ち塞がる。

 捻じ曲がった覚悟を掲げ、グリフォンは意を決して雄叫びを上げる。


「地龍様の治めた大地を、我々は死守する。そのためであれば、魔王とて相手取ること所存だ!」


 グリフォンは鷹の目を鋭く光らせ、雄々しく戦慄いた。

 遥か上空から俯瞰する鷹の視界に、不意にマリーが映り込む。たかが人間の仲間だと見下していた内に、意外な人影を見付けてグリフォンは仰け反った。


「…………一体どういうことだ?」


 果敢に吼え猛っていたグリフォンだったが、突然、攻勢を鞘に納めた。鋭い眼光を湛えたまま、独り言を零しながら思慮に耽る。

 空中で制止したグリフォンを見上げ、リュージーンたちは訝しんで固まる。


「どういた……? グリフォンの様子が変だぞ?」

「私たちの方を見て固まったね。もしかして、少しは冷静になってくれたとか?」

「だといいけどな……」


 何かよからぬ不穏な空気、有体に言えば「嫌な予感」というものが一同の中に迸った。

 リュージーンたちが先手を打つよりも前に、グリフォンが行動に出た。


()()は、何の目的を持ってチョウランを訪れた?」

「もちろんロン爺に会うためだ。僕たちは魔王軍に対抗するための同盟を」

「黙れ白夜王! 我は()()にではなく、()()に問い掛けているのだ」


 猛々しく吼えるグリフォンは、視線をマリーに向けて問答を飛ばした。


「え? えぇ!? 今の私に向けてだったの?」

「主語が曖昧すぎる。幻獣って高慢とか傲慢を通り越してアホなのか?」


 当のマリーですら気が付かなかった問い掛けである。

 察しのいい道周ですら分からない会話の暴投である。

 当のグリフォンは気に掛ける素振りもなく、泰然としてマリーの返答を待った。

 とにもかくにも、状況を打破するきっかけに違いはない。問い掛けを受けたマリーは、急ぎ偽りなき回答を行う。


「セーネが言ったように、私たちは領主さんに会いに来たの」

「たとえ地龍様が居られないとしてもか?」

(「居ない」だと。さっき言ったことと違うくないか?)


 マリーとグリフォンの問答の最中、道周はグリフォンの言葉に引っかかりを覚えた。しかし抱いた違和感はあえて口にせず、問答の成り行きを静観する。


「それでも、私たちには貴方たち幻獣の協力が欲しい。チョウランの皆の協力をお願いしに来たの」

「ふむ。何か訳ありと見える。

 ……よかろう。貴様の言い分聞いてやらんでもない」

「だったら――――」


 グリフォンの許しが降りて、舞い上がったセーネが喜色を漂わせる。

 だがセーネを毛嫌いしているグリフォンが、その発言を許可するはずなく、


「黙れ白夜王。我が許しを出したのは、そこな魔女の娘だ。貴様らはここより先へ通さん」

「ぐぬぬ……」


 セーネはグリフォンの威圧感と怒声に奥歯を噛み締め黙り込む。

 肝心のマリーは、グリフォンの提案に希望を見出していた。


「……分かった。話を聞いてもらえるなら、それに越したことはないよ」

「マリー。任せて大丈夫か?」

「大丈夫だよ。私の手練手管をご覧あそばせだよ」


 いつになく強気なマリーは、袖を捲し上げて気合を見せる。

 グリフォンはマリーの同意を受け取ると、鼻を鳴らして急降下した。


「わっ!?」

「なっ!」

「にぃ!?」


 急降下をしたグリフォンは、その嘴でマリーの首元を甘噛みで持ち上げた。そして鷲の翼を広げると、砂塵を巻き上げて飛翔した。


「この魔女の娘は貰っていく。貴様らはそこで座して待っているがいい!」


 マリーを咥えたグリフォンは、上空で道周たちを見下ろして別れを告げた。


「待て! マリーを連れて行くのは話が違――――」

「ふん!」


 グリフォンの行動を止めに入るセーネだが、その道は厚い大気の層に阻まれた。グリフォンが操る気圧差の壁は、実態を持たないが故に、速攻で破ることは困難であった。


「くそ!」


 セーネが歯噛みをする。盛大な舌打ちを鳴らしても、マリーを攫うグリフォンの飛翔は止められない。


「大丈夫だよセーネ。私を信じて。必ず帰ってくるから」

「マリー!」


 マリーの言の葉はセーネに届く。その逆も然り、セーネの言葉もマリーに届いている。

 断崖絶壁の灰色の岩山の向こうへと、グリフォンとマリーは姿を消した。

 険しい連峰の向こうへ、魔女同盟が長が単身乗り込んだ。残された道周たちがどれだけ心配をしようと、マリーの試練はマリーが1人で乗り越えるべきものになった。

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