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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「絶界領域チョウラン」編
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空を駆ける勇猛

「さぁ人間共よ。退くかここで息絶えるか。今、選ぶがよい!」


 大翼を広げたグリフォンが啖呵を切る。道周たちの一団は6人に対し、大空を舞うグリフォンは一頭のみ。しかし、グリフォンは一切怖気づくことなく、気高い瞳で一行を見下ろした。

 断崖絶壁の山岳に行く手を阻まれた道周たちは、奥歯を噛み締めてグリフォンを見上げることしかできない。悔し気を惜しみなく滲ませ、突破口を見付けるべく策略を巡らせる。


「気高き獅子と鷲の幻獣、グリフォンよ。僕たちの話を聞いてほしい!」


 同様と口惜しい道周たちを差し置いて、セーネが前面に出た。グリフォンを見上げたまま言葉を投げ掛け、武力を行使しない温和な解決を図る。

 セーネは元領主としての威厳と、吸血鬼と戦乙女(ヴァルキュリア)を併せ持った血筋の気品を漂わせて、グリフォンと平等な立ち位置に並び立とうとした。

 セーネの凛とした声音が岸壁に反響し、グリフォンの耳へと確かに届いた。グリフォンはセーネの訴えを聞き入れ、鋭利な瞳を細めて微笑を湛えた。


「ふざけるな。貴様が何者であろうが、我ら幻獣と語り合うなど不遜の極み。我の威光を前に、貴様の取ることのできる行動は二つに一つよ!」


 グリフォンは高慢にも思える口振りでセーネの提案を一蹴した。そして雄々しく翼を広げ、弾けるような圧力で威を放つ。グリフォンによるたった一瞥、されど一瞥。その威と同時に放たれた空気の圧力が、道周たちの身体に圧し掛かった。


「重力か!?」

「いや、これは気圧だ。あの幻獣、ただ者じゃないぞ!」


 上空からの圧力に膝を折りながらも、道周とリュージーンは天を見上げる。

 2人の視線の先に立つグリフォンは、鋭利な嘴を持ち上げていた。

 グリフォンの僅かな挙動から、道周は瞬時に判断を下す。


「突進が来るぞ。皆構えろ!」


 道周はグリフォンの威圧を受けながらも、気丈に立ち上がり魔剣を持ち上げた。「神秘を断つ」という異能が失われたため、魔剣でグリフォンの気圧を切り裂くことはできない。それでも、道周の愛剣としてこの戦況の先陣を切る。


「人の子よ。不遜にも我に刃を向けるか! 翼を持たぬ風情で、一体何を為す!?」

「うるせぇ! 確かに俺は空を飛べない。「()()」な」

「っ!?」


 道周の含みのある言葉に、グリフォンは瞳を剥いた。言葉の真意を測るよりも早く、グリフォンは身体を転身させる。

 焦り振り向いたグリフォンの視線の先には、銀のスピアを構えたセーネが飛翔している。


「貴殿に恨みはないが、この道を空けてもらう!」

「戦乙女と吸血鬼の混血……。貴様、北の白夜王か!?」


 グリフォンはセーネの正体に気が付いた。しかし、看破するには手遅れであり、「空間転移(テレポート)」の権能によって背中を取られていた。

 グリフォンの首筋に狙いを定め、セーネはスピアの切っ先を繰り出した。その一撃は命を刈り取る攻撃ではなく、意識を刈り取るべく髄を刺激する繊細な一撃である。

 地龍の元へ辿り着くために、話を聞く耳を持たない幻獣には退場していただこう。

 セーネは申し訳なさを半分ほど持ったまま、それでも遠慮なくスピアを放った。

 だが、その鋭利な切っ先がグリフォンの羽毛を掻き分けることはなかった。


「ふん! 猪口才な!」


 セーネのスピアは完璧に不意を突いていたものの、完全に回避される。虚しく空を切る音だけが置き去りにされる。

 肝心のグリフォンは空中で180度の転身を迅速に行うと、持ち前の鉤爪でセーネへ反撃する。


「そちらこそ、欠伸の出る攻撃だ」


 セーネとて空中戦のエキスパートだ。権能を使わずして白翼で身体を繰り、グリフォンの攻撃を避ける。

 その後のセーネとグリフォンの空中戦は、互角の攻防を繰り広げた。

 セーネは愛用のスピアによる打突と同時に、「物質転移(アポート)」の権能で虚空から数々の武具を取り出した。長槍の投擲と、刀剣の薙ぎ払い、そしてスピアの打突と徒手による打撃を繰り出し、手数と速度でグリフォンに猛攻を仕掛ける。

 一方の幻獣グリフォンは、セーネの苛烈な攻撃に対して受けに回っていた。セーネのありとあらゆる攻撃を、「視て」から回避する。驚異的な反射神経と幻獣としての身体能力を駆使し、掠りもしないタイミングで完全に回避する。同時に気圧の弾丸を飛ばし反撃を加え、セーネに食い下がる。


「くそ、俺たちも加勢できないか?」

「あの高さは、俺たちじゃ無理だ。ここはセーネに任すしかない」


 奥歯を噛み締め、道周とリュージーンは空を見上げる。

 いくら歴戦の剣戟を持つ道周とて、空を飛ぶことはできない。どれだけリュージーンが策を巡らせようと、翼を持たない事実は変えられない。


「だったら、私が魔法で皆を飛行させれば……」

「それは悪手だ」


 マリーがおずおずと提案したが、リュージーンがあっさりと否定した。

 マリーはムスッと頬を膨らませるが、リュージーンは冷静にマリーを諭す。


「たとえマリーの魔法で俺たちが飛行できたとしても、あの高速の空中戦ができるか? マリーは飛ぶことはできても、高速戦闘まではできないだろう。そもそも、空中戦闘を想定して訓練を積んでいないだろう。

 わざわざ相手の狩場に飛び込むことはない」

「くぅ……。ド正論……」


 リュージーンが並べた正論に、マリーは押し黙る。

 地上で策略を巡らせ、口惜しんでいると、激闘を繰り広げる空中では展開が変わる。


「ちょこまかと鬱陶しい。我ら幻獣の領域に、踏み込もうとする外野風情が!」

「君こそ、いい加減僕たちの話を聞いてくれないかな? 僕たちは戦いたいわけじゃないんだ」

「喧しい! 地龍様亡き今、我々がこの領域を死守する!」

「なっ……!?」


 グリフォンが叫んだ言葉に、セーネが息を飲んだ。それは地上で見上げることしかできない道周たちも同様に、耳を疑う言葉であった。


「「地龍亡き」だと……!?」


 グリフォンは言った。


 地龍こと東の領主、ロン・イーウーは、死んでいる――――、と。

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