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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「恋慕とリンボのニシャサ」編
196/369

朝日を迎えて

 夜が明けると太陽が昇る。


 それは、太陽神が支配するニシャサにおいても不変の減少であった。

 明け方の首都、テゲロは半壊した傷痕をまざまざと残しながらも、清々しい朝を迎えている。

 領主スカーが主導する復興作業は的確に進み、早くも仮設市場に以前のような賑わいが戻っていた。

 そんなテゲロの郊外で、スカーを筆頭としたニシャサの幹部が一堂に会していた。


「本当にもう行ってしまうのか? もう少し傷を癒して行けばいいものを」

「そのお気持ちと、貰った食料と路銀だけで十分すぎるくらいだよ。私たちだって、この街の復興に負けないくらいに頑張らないといけないからね!」


 スカーの労いを受け、同盟の代表であるマリーが謝辞を述べる。同時に胸の前で拳を握り締め、堂々たる決意を表明した。

 スカーにはそれ以上の言葉は不要だった。マリーが返した言葉に満足したスカーは、凛々しい顔で柔和な笑みを浮かべた。


「そうか。ならば妾たちも負けていられないものよ。いい報告を待っておるぞ、マリー」

「任せて!」


 スカーの佇まいと言の葉は、まさに太陽神の名に相応しい。一言一句が朗らかな温かみに満ちており、心地よい勇気が沸き立ってくる。


「さぁ! 気持ちを切り替えて、張り切って行くよ!」

「「「「おぉー!」」」」


 名残惜しさを感じながらも、マリーは張り切って号令を上げた。それに続いた一行の出発の鐘声は、広大な砂漠地帯の遠方まで響き渡る。

 出発のときを見計らったスカーが柏手を打った。それに続くように、スカーの傍仕えの青年、イルビスが一歩前に出る。


「皆様が砂漠を抜けるまで、私が案内しよう。貴殿たちはなるべく消耗しないように、こちらの馬車へ」


 手際のいいイルビスは、用意していた馬車を指し示した。

 馬の体躯を持つ牛顔の獣、ギュウシが、得意げに「ヒヒン」と鼻を鳴らす。

 ギュウシがけん引する馬車は、砂漠地帯を抜けるように設計されており、快適で順調な旅を予感させた。


「何から何までお世話になる。本当に、何と言えばいいか……」

「謝辞はもうよい。妾がやりたいようにやっておるのだ。

 それにセーネ。其方が運んだ幸運と革命の徒たちだ。過去のことは気にするな。其方は前を向いて、この者たちの道を示せ」

「スカー……。本当に……」


 感極まったセーネは、それ以上言葉を続けることができなかった。

 かつてセーネは、「四大領主」からそれぞれの権能を勇者マサキに割譲することを発案した身である。この200年間の不自由を、暗黒の時代の起因となってしまったという自責の念を抱え、セーネは誰よりも苦しんできたのだ。

 そんなセーネが立った今、スカーによって解き放たれた。ほんの僅かな許しであっても、セーネの気持ちを推し量ればこれ以上のことはない。


「さぁ、行くなら行くがよい。妾とて、長々と其方たちの見送りをしているほど暇ではないのだ」


 スカーにせっつかれ、一同は馬車の荷車に乗り込んだ。イルビスがギュウシの手綱を握り、高らかに手綱を打った。

 ギュウシの甲高い雄叫びが轟き、同盟を乗せた馬車が砂漠を行く。

 最後は突き放すような言葉を投げたスカーだが、同盟の一行を乗せた馬車が見えなくなるまで見送りをした。


 間上同盟が目指す次なる領域は、東の領域「チョウラン」である。「四大領域」の残す最後の領域は、地龍と呼ばれる領主が支配する絶界・未開・未踏の大地である。

 壮絶な環境が生命を選別する大地は、「幻獣」と呼ばれる種族のみが生息する領域である。

 チョウランで待ち受ける試練は、これまで訪れた領域の中で最も衝撃な結末となる――――。

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