表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「恋慕とリンボのニシャサ」編
194/369

魔剣なき夜に

「――――……ふぅ。いい月だ」


 ニシャサが魔女同盟に加入した日の夜。道周は与えられた客室のバルコニーから空を仰いだ。満面の星空と天頂にかかる満月を眺め、深々と溜め息を漏らす。

 道周は会議を終えた後、自室に籠って魔剣の手入れをしていた。マサキとの決戦で、魔剣に嵌め込まれた碧玉は砕け散った。

 魔剣の柄には、かつて7つの碧玉が据えられていた。それらが陽光に照らされて、白銀の魔剣と碧い輝きのコントラストが映えていたものだ。

 碧玉の全てが砕け散った今、魔剣はその剣身に秘められた異能は失われてしまう。「神秘を断つ神秘」を内包していた魔剣は、もはやただの十字剣である。身体に馴染んだ剣は未だ現役ではあるが、道周は戦い方の変更を余儀なくされる。

 先の会議でも、魔剣の異能が失われたことは議論された。

 目下の標的として定められていたアイリーンとの戦闘で不利を強いられることはもちろん、正体不明の魔王に対する切り札が欠けたことになる。

 とりあえずは頭数で突破するという結論に至ったが、道周はそのことを気に病んでいないと言えば嘘になる。


「お前は、どこから来たんだろうな……?」


 道周は無意識のうちに魔剣に語り掛けていた。

 魔剣が返事をすることはなく、道周の問い掛けは虚しいく夜の闇に消え入った。

 道周の魔剣は、以前道周が転生した異世界での拾い物だ。しかし、以前の異世界で生産されたものではないらしく、「別の異世界から来た魔剣」という結論に至った。つまるところ、魔剣を愛用してきた道周でさえ、魔剣が秘める神秘の根源も由来も、刀匠の名すら知らないのだ。

 そんな魔剣を、使い手であるだけの道周がどうのこうのできるはずがない。道周は刀匠でもなく、異能を与える術すら持たない。

 もう、魔剣に「神秘を断つ神秘」という異能が戻ることはないのだ。

 そう考えると、道周の胸に冷たい夜風が吹き込んだ。


「俺がお荷物にならないようにしないとな」


 道周が珍しく弱音を吐いた。

 2度目の異世界転生を、持ち前の判断力と経験から乗り越えてきた彼ではあるが、今までに立ち塞がったことのない壁にぶち当たった。


 この壁をどう乗り越えるか。

 その答えは、すでに道周の中にある。


 マサキとの死闘の最中、道周は己の強さを語った。仲間が、友が道周を次のステージに押し出してくれるのだ。

 マサキにはなかったものを、道周は幸運にも多く抱え込んだ。この幸福を、決して失うわけにはいかない。

 そのために道周は、再び相棒(魔剣)を手にした。


「もう少しだけ、無理を付き合ってもらうぞ」


 魔剣から言葉は返ってこない。

 しかし、道周の言葉に答えるように魔剣が煌いた。月光を刃で照り返し、目覚ましい輝きが刹那を駆ける。

 この魔剣が、数奇な運命を紡ぐのはまた別の話。


 コンコン。


 道周の客室に、控えめなノック音が響いた。


「開いてるよ」

「失礼するよ」

「お邪魔しまーす」

「ます」


 道周の部屋に、女子3人組が入室した。気の置けない仲間たちは、遠慮なく部屋の椅子に座り道周を手招いた。

 道周は魔剣を右手首のブレスレッドにかざした。道周の旅を影ながら支える群青色のブレスレッドは、魔剣を光の粒子に変えて飲み込んだ。

 道周は3人が待つテーブルに向かうと、手近な椅子に腰を下ろした。

 両手に花では有り余る、見目麗しい美女を前に、道周は首を傾げた。


「こんな夜中に何の用事だ? まさか3人で夜這い……?」

「そんな軽口、何だか久しぶりだね」

「出会ったときを思い出しますね」


 マリーは怪訝な顔をして、ソフィは朗らかに微笑んだ。

 道周とマリーがソフィと出会ったときを思い出し、凄く昔に思えると相笑った。

 3人の様子を親愛な眼差しで見守っていたセーネであったが、真剣な瞳に切り替えて本題を切り出す。


「実は、皆に相談したいことがあって集まってもらったんだ」

「これはふざけられる状況じゃないと見た。話を聞こう」


 セーネの醸し出す奮起に感化され、道周たちは口を閉ざした。セーネと同じく真剣な面持ちで、次の言葉に耳を傾ける。


「リュージーンのことで、気になっていることがあるんだ」


 セーネの放つ不穏な空気に、一同の不安が掻き立てられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ