私の人生
「私、親の名前も顔も知らないんだよ」
告白を始めたマリーは、沈鬱な表情を浮かべた。それでも言葉を紡ぎ、複雑な半生を想起する。
「小さいころは施設で育って、小学校からは寮。高校に入って一人暮らしをして、親と一緒に住んだことはないんだよ。
生活費は代理人を通して振り込まれているし、けどその代理人も親を知らないらしいの」
「そこまでしてくれているのに、どうして顔を合わせるどころか連絡もくれないのか? 不思議だな」
「きっと親は、私を子供とは思っていないんだよ。ただ、知らぬ顔して見殺しにもできない。だからお金だけは送り続けて、足が付かないようにしているんだよ」
「そんなことは――――」
「あるよ。だから私はバイトして、親の手から離れられるように頑張っていたの。自立は無理でも、自分に使うお金は自分で稼いでいたってわけ!
どうミッチー。何かヒントはあった?」
マリーは暗い色を振り払って、明るい表情を浮かべた。いつも通りの快活な笑顔で、道周に向き直る。
道周は気丈に振る舞うマリーの気持ちを推し量り、これ以上気遣うような言葉は諦めた。気持ちを切り替えて、マリーの半生を元にその不可思議な才能の手がかりを探る。
「うーん。マリーの親の話から何かとっかかりがあるかと思ったけど、ノーヒントとくるとな……。言い難いことを言ってくれたけど、正直何も分からない。ごめん」
「いいっていいって。ミッチーには言っとかないといけないことだったから。きっかけになったと思えば」
マリーは朗らかな笑顔で道周を元気づける。
2人は和やかな会話を続けた。異世界に来てから久しぶりの2人だけの時間で、様々な会話を続ける。元の世界でどんな生活をしてきたのか、元の世界に帰って帰って何をするか、高鳴る希望で胸を膨らませて、この先の旅の標榜を立てた。
どれだけの時間を団欒していたのだろうか。2人が気が付いたときには、太陽が地平線に脚をかけていた。茜色の日差しに頬を照らされ、喋りすぎたと笑い声を上げる。
2人が起床したことに気が付いたお目付け役が、遠慮気味にノックをした。
豪華な客室の、豪勢な扉を開けて入室したのは、半鳥半人の亜人、フゥだった。フゥは快調に返った道周たちの様子を見るや否や、凛々しい顔を破顔させて喜ばしい声を上げた。
「お2人とも、お目覚めになったのですね! でしたら宴会の席へどうぞ。太陽神始め、私たちニシャサの者どもより、精一杯の宴をさせていただきます!」
フゥの輝かしい表情を見て、道周とマリーは顔を見合わせた。元の世界に募らせた思いは積み重なれど、2人が生きる世界は今はここなのだと再認識する。
そして、その住人たちと過ごした時間は嘘ではなく、確かにここにあるものなのだ。
「よし、そうくるなら行くか!」
「お腹減ったところだったんだよ!」
2人の異世界人の旅はまだ続く。
しかし、確かな終わりが待っていることも事実である。
かつての勇者、マサキが諦めた「異世界転生のその先」へ。2人は修羅の道を突き進む。




