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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「恋慕とリンボのニシャサ」編
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哀れな勇者

「さぁ、マサキよ。覚悟を決めるがよい!」


 黄金の炎熱を帯びた鳥躯のスカーが、甲高い雄叫びを上げてマサキを見下ろした。大きな翼を広げて天上を覆い、灼熱の羽根を展開する。


「結局は連戦になるのか……。君は僕の理解者だと思っていたが、白刃を向けるのなら仕方ない。相手をしよう」

「言ってくれるな。昔の其方は、もそっと謙虚だっとと記憶しているが」

「それは記憶違いだね。ついでに忘れていないかい? 僕は君たち「四大領主」の権能を全て有していることを!」


 啖呵を切ったマサキは、獰猛に牙を剥いて業火を放った。業火を操る権能の元々の持ち主であるスカーに対して、不遜な一撃は猛々しく荒れ狂う。


「妾に対して、いの一番に炎を放つとは。身の程を知るがよい!」


 スカーはマサキが繰り出した業火に怯むことはない。堂々たる佇まいで黄金の翼を広げると、金翅鳥と化した身を繰って疾走する。

 スカーが纏う黄金の炎は鎧となり、同時に一撃必殺の武具となる。金翅鳥のくちばしは破城の弩となる、マサキの業火を容易く貫いた。

 疾走するスカーは勢いをそのままに、黄金の彗星となって地上のマサキへ目掛けて下降した。


「炎が駄目なら、別の手で攻めるのみ!」


 スカーが身を以って撃ち出した超ド級の攻撃を前にして、マサキは笑みを浮かべた。マサキは両腕に雷霆を纏い迎撃の体勢を取る。同時に岩盤を操作し、荒れ狂う岩石の蛇が牙を剥く。

 スカーは地形を変え得るマサキの攻勢にも、果敢に立ち向かう。疾走する勢いは衰えず、迎撃ごと貫く気概で猛進した。

 天地を揺るがすほどの、規格外の攻撃が激突した。

 マサキと道周が起こした正面衝突のような、盛大な大爆発が巻き起こる――――、ことはない。

 一撃必殺の槍と化したスカーの猛攻は、マサキの迎撃を全て貫通した。規格外の威力を持つ者の激突は、思いの外呆気ない結末になった。

 スカーは幾重にも重なった迎撃を全て突破し、遂にマサキの元へと至った。


「くっ! 押し敗けたと!?」


 マサキは「空間転移(テレポート)」の権能で辛うじて被弾を避けていた。しかし撤退した先で冷汗を流し、困惑の色でスカーを眺めている。

 スカーは依然黄金の鎧を纏い、金翅鳥の翼を広げて上空へ舞い上がった。


「どうして多くの権能を有する其方が妾に押し敗けたか、不思議か?」

「偶然だね。一つの権能に集中して放てば、押し勝つのは僕だ」

「それは決して有り得ん」

「なんだと……?」


 スカーの言葉に、マサキは片眉を上げて不信感を募らせた。

 スカーはマサキの苛立ちを見抜き、煽り立てるようにマサキを見下ろした。そして悠然とした佇まいで、マサキに真実を告げる。


「所詮、貴様の操る権能は「貰いもの」。権能とは、元来より修練の果ての異能だ。健全な身に宿ってこそ完全な権能である。其方の身体は、割譲された権能を長期間保持する身体ではなかったということよ」

「黙れ……」

「それに、其方はこれまでの戦闘で消耗しておろう。本気で命を奪い合うのならば、妾とて決着が付くまで戦ってやろう。

 しかし、どちらかが死に痛手を負うのは避けたい」

「黙れ黙れ黙れ…………」

「今ならば其方を見逃してやる。妾との婚約をここに破り捨て、おめおめと魔王の元へ戻ってみせよ」

「黙れ!」


 今まで飄々と余裕を崩さなかったマサキが、完全に本性を露わにした。屈辱を浴びせられ羞恥に満ちたマサキは、憤怒の面持ちで両腕を上げた。

 マサキは、今一度大技を放つ算段だ。権能を超えたエネルギーの収束と、異形の弾丸を形成すべく、周囲の空気を掌に閉じ込める。空間を押し潰して圧縮し、光を飲み込む暗黒の弾丸が形作られていく。


「もう聞き飽きた。僕はこの大陸を背負ったあの日から「勇者」だ。僕の輝かしい日は明日も続く。そのために、君たちに脚を止められるわけにはいかない――――!」

「まだこれほどの力を持っているか!? いや、削り出しているのだな!?」


 怒り狂ったマサキは、すでに周りが見えていない。利己的で驕りに塗れた青年は、万感の思いで空を仰いだ。

 その瞳には、元の世界など見えていない。己の満足のために、欲望に満ちた輝かしい明日のために、己が枯れ果てない潤いのために、「ドーゲン・マサキ」は力を奮うのだ。

 その果てしない欲望の結晶が、マサキが抱えた破滅の弾丸である。腕の中に抱えた超エネルギー体は、万物を飲み込み食い散らかす。その小さな弾身には引力を有し、光さえ逃さない暗黒の弾丸が放たれた。

 道周は昔日に見たような破滅の弾丸を仰ぎ、危機感を以って身体に鞭を打つ。このままではいけないという焦燥感に駆られ、力を振り絞って魔剣を握り締めた。

 だが、道周の底力もそこまで。座した状態から立ち上がるだけの力はなく、ましてや先頭に駆り出るだけの奇跡は起こらない。

 道周は悔しさを滲ませる。魔剣を握る手に砂を握り締め、泥を食む勢いでうずくまる。奥歯を噛み締めて呻き声を上げ、変えようのない現実に苦悶した。

 そんな道周の手を、マリーが取った。治癒を終えたマリーは道周の脇を支えて立ち上がらせると、覚悟に満ちた双眸で、無言の内に道周を見詰めた。

 何よりも道周を勇気づけたのは、マリーの瞳に宿る光だった。

 マリーは、マサキと過去の因縁に、規格外で不倒の宿敵を目の当たりに痛感しても諦めていない。


「行くよミッチー。あの「自称勇者」と、決着を付けよう」


 道周とマリー、2人の異世界人が手を取り合って立ち上がり、魔剣に祈りを捧げた。

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