再起する剣 1
「よし、テンバーのやつを上手く唆してやった。俺の作戦通りだろ?」
「本当ギリギリもいいところだったけどね」
「ですです。
「テンバーとドーゲンをぶつける」って言ったときは耳を疑いましたけどね」
「テンバーは最初からドーゲンにいい印象を持っていなかった。それに加えて黒剣を奪われて、相当頭に来ていたはずだ。ミチチカに刺さっていた黒剣を引き渡すと同時に、心中の炎に油を注いでやったのさ。
それで、ミチチカの容体はどうだ?」
作戦が功を奏して上機嫌のリュージーンは、笑顔の面持ちを潜めて道周に駆け寄った。マリーとソフィの腕の中で目を瞑る道周は、安定した呼吸を取り戻していた。
「この通りだよ。セーフ」
「止血完了です。欠乏した体内の血液も治療の魔法で補填して、命に別状はありません」
2人の報告に、リュージーンは満足そうに頷いた。そして作戦を発案した参謀らしく、時点の策を提案する。
「よしよし、あの危機からよくぞ持ち直した。このまま逃げるぞ……!」
「おいおい……。敗けっぱなしで、追われるかよ……。アホトカゲ……」
臆病風に吹かれたリュージーンを、掠れた声の道周が笑い飛ばした。
「ミッチー!」
「目を覚ましたんですね!」
「大丈夫なのか?」
道周の目覚めに、マリーたちは嬉々とした声を上げる。と同時に、その身体を労わり、起き上がろうとする身体を支えた。
「快調ではないが、まだ戦える。あの男を倒さなければ、俺たちは先に進めないだろう?」
道周は覚束ない足取りの反面、眼光はドーゲンに向けられていた。
道周の視線の先では、ドーゲンとテンバーが大乱闘を繰り広げている。
天へ届く火柱が立ち昇ると、その天空から眩い落雷が大地を穿つ。割れた大地は一人で二うねり隆起すると、自我を持つようにテンバーを襲う槍となる。テンバーが竜翼を駆使して高速で飛翔しようと、猛威を奮う暴風がテンバーを絡め取った。
天変地異と見紛う阿鼻叫喚は、全てがドーゲンの権能によるものであった。
圧倒的な力を見せ付けるドーゲンに、テンバーはそれでも食い下がる。たとえ雷霆に焼かれようと、岩盤に道を阻まれようと、暴風に敵わずとも、テンバーは黒剣を振るのを止めない。
それこそが、テンバーが口にした「竜人族の誇り」であるのだと、道周は魂で理解する。
だからこそ、道周の言葉に二言はない。これから先の試練には、必ずドーゲンと言う壁が立ち塞がるのならば、今この好機を逃すわけにはいかないのだ。
「テンバーの攻撃に合わせ、俺たちも追撃をしよう。少しでいい。隙を作れば、俺が止めを刺す……!」
「「魔性開放」を使うのか?」
「もちろんだ。出し惜しみして勝てる相手じゃない。何せドーゲン、あいつこそ、勇者「マサキ」だ――――」




