竜人の矜持
黒剣を振りかざしたテンバーの猛攻は、嵐のような熾烈さを帯びていた。剣の扱いもさることながら、竜人としての強靭な脚力と頑丈な体幹、そして広げられた竜翼の扱いにより人間を凌駕するスピードとパワーを両立していた。
「我が黒剣を、我らが竜人族の誇りを、誇りも何もない手で汚した償い。してもらうぞ!」
「あーやだやだ。何を熱くなっているのかね……」
怒気を放ち剣を振るうテンバーとは対照的に、ドーゲンは冷ややかな表情で回避に徹する。
テンバーも猛攻は、ドーゲンに直撃する寸手のところで不思議と回避されている。通常ならば困惑するべき回避能力だが、仕掛けを看破したテンバーは落ち着入て攻め立てた。
宙を舞ったテンバーが黒剣を突き立てる。
ドーゲンは身を翻して、掌に集約した雷を槍として撃ち出した。
テンバーは目前に迫る雷霆にも怯まず。橙角から溢れ出る火炎弾で相殺する。そして空中の身体を捻って強烈な前蹴りを放った。
ドーゲンはテンバーの脚を紙一重で避けるが、軍服の襟を掴まれる。テンバーの圧倒的な膂力に身体を持ち上げられ、無防備になった首元に黒剣が迫った。
しかし、ドーゲンの肌に刃が通ることはない。
ドーゲンはテンバーの掌から零れ落ちて着地すると、地面を転がって距離を取った。
テンバーは回避したドーゲンを追撃する。竜翼を羽撃かせて灼熱の砂塵をドーゲンへぶつけた。
塊となって迫る砂塵を、ドーゲンは回避しない。正面から受けて立つと、両腕を広げて暴風を放った。
その高温などお構いなしに、視界を覆う砂塵は霧散した。
ようやく晴れ渡った視界の中、テンバーが突貫を繰り出した。
黒剣を突き立て、揚力を最大限に生かした低空飛行でドーゲンに迫る。
だが、やはりドーゲンには当たらない。
ドーゲンは肉薄した黒剣を、身を返さずに回避する。それこそ「瞬間移動」のような動きに、テンバーの推理は確信に変わった。
「貴様……、やはり――――」
「あー、そういうのはいいから。僕に剣を向けたからには、考えている暇はないよ。この前戦ったときみたいに、生き残れるとは思わない方がいいから」
そういったドーゲンは、全身に青白い電光を纏った。そして広げた両掌には煌々と燃え盛る火炎が宿っている。正しく臨戦態勢と言ったドーゲンは、先手と言わんばかりに大地を踏み鳴らした。
ドーゲンの地団太を合図に、テゲロの大地が震える。不可解な地震に足を取られたテンバーだったが、次の瞬間にはより驚異的な光景を目の当たりにする。
「もう隠さない。枷がないって、楽だなぁ……」
そう呟いたドーゲンの背後では、隆起した大地が塔を形成していた。天高く立ち上がった岩盤の尖塔は槍となり、ドーゲンの意のままにうねり始めた。
そして尖塔が穿つのは、もちろんテンバーだった。見上げても高さの計り知れない巨大な槍と、一撃必殺の雷霆と業火を操るドーゲンは獰猛に牙を剥いた。
「これが序列第1席……! 面白い、竜人の誇りを見せてやる……!」
黒剣を構えたテンバーは降りかかる岩盤の槍に斬りかかった。その強固な槍を真っ二つに切り裂くと、次に迫る雷撃に火炎を返す。
ドーゲンとテンバーの死闘は、テゲロの街並みを豪快に破壊しながら、更なる熱を帯びていった。




