彼の者は背負い往く
あらすじ
道周たちの前に現れた、竜人騎士によって構成される「特務部隊」。
魔王直轄の彼らは関所を暴き、道周たちへ確実に近付くのだった。
「テ、テンバー・オータム!?」
道周たち密航者が身を潜める荷台の中、ソフィは声を荒らげて京丹後大宮する。
冷静沈着なソフィが素直な感情を露にすることは珍しい。道周がソフィの顔色を伺った。
「何かまずいのか?」
「それはもう大事件です。
テンバー・オータムと言えば、魔王直轄のエリート集団「特務部隊」の歴代最年少隊長です。すなわち、「魔王軍幹部」ですよ!」
「なにっ!?」
「えっ!?」
木箱の間に押し込まれた道周とマリーは堪らず息を飲んだ。
異世界転生の最序盤で相手取るにしては、こちらの実力では心許ない。
対する人質リュージーンは心強い味方の到着に嬉々としていた。
道周たちの隠れる荷車の外では、テンバーが自慢の竜角を振り上げ辺り部隊の指揮を執っている。
テンバーと同じく橙の竜角掲げた竜人たちが関所と通行人の検問を始めていた。
「おい、この倉庫を開けろ」
「積み荷を見せろ。もちろん鞄の中身もだ」
「貴様、連れはどこへ行った?」
特務部隊は黒い鎧に刻まれた「槍に巻き付く二頭の蛇」の紋を振りかざす。
魔王直轄の部隊の登場により、関所はものものしく険悪な雰囲気に包まれていた。
「次はこの荷車か」
そして、遂に道周たちの荷車に検閲の番が回ってきた。
荷台を覆うテントに竜人の影が映り、心臓が飛び跳ねる。
特務部隊の内の1人が幕に手をかけ、外の明かりが荷台に射し込んだ。
「ところで竜人様よぉ。なんでもって検問なんてやってんだ。今までこんなことなかったろ?」
アムウが引き留めた。
何気ないアムウの疑問に特務部隊の竜人は気前よく答える。
「何でも魔王直属の祭司長が「異世界人転生の予感あり」と言ったそうだ。そのお陰で草の根を分けてでも探せってなってね。俺たちまで駆り出されているのさ」
「へぇ、「異世界人」ねぇ……」
アムウは何とも言えぬ表情で荷台に視線をやる。
アムウと言葉を交わす竜人は視線に気付きはしない。調子よく尋ねてもいないことをベラベラと話してくれた。
「それに「見慣れない格好の2人組を見た」なんて証言が取れたんだ。ここから南に2日ほど行ったところの宿場町から、北へ向かったとかなんとか」
「へ、へぇー……」
アムウの顔色が曇る。そこまで証拠が揃っていたとは、少し不用意が過ぎたかと後ろ髪が引かれた。
同じく荷台の中のソフィも怪訝で複雑な顔をする。だが今は反省をしている隙はない。
道周が一番に手を上げた。
「仕方ない、俺が人質とともに時間を稼ぐ。ソフィはその間にマリーを連れて隠れてくれ。あわよくば脱出してくれてもいいぞ」
「でも、それじゃミッチーが危ないんじゃ」
「大丈夫だ、最悪人質を残して大脱走するさ」
「グヌヌ……」
リュージーンは異議を唱えるが言葉は出ない。
眉をハの字にしたのはマリーだけではない。ソフィも不安に満ちた顔で道周を窺う。
「ならば私が囮になった方がいいのでは。煙に巻くのも私の魔法でなら可能です」
「けど俺は道もわからない。合流する味方の顔も場所も分かっているソフィが行ってくれた方が安心だ」
「ですが……」
「時間がない。これで行くぞ」
「待ってミッ」
道周が立ち上がり会話を絶ち切った。リュージーンをソフィの腕の中なら引ったくる勢いに押されて、ソフィもマリーも口をつぐむ。
荷台の外では、アムウがまだ竜人の気を惹き付けている。
待ってミッチー
私はまた、見てるだけ。守られているだけ。
マリーの心中は言葉にならない。口にしたところで栓なきこと、マリーに何ができるわけでもない。
それでも声を上げたかった。
マリーは、自分を庇って戦いに赴くミッチーの背中を見たくなかったのに。
やむなくソフィがマリーの手を引く。道周と逆方向へ誘われるままにマリーは脱出した。
時間稼ぎも限界だ。見兼ねたテンバーが歩み寄って来た。
「何かお困り事ですかね、アムウ・ムートン殿」
「おや、希代の竜騎士殿に名前を知っていただいているとは驚きだ」
「なに、貴殿の豪傑っぷりが響いているだけですよ。
それよりも荷台の中を拝見させていただく。構わないですね?」
「お、おう。もちろんよ」
アムウは済ました顔で首肯したものの心穏やかではなかった。
テンバーが荷台の幕に手を伸ばす。猶予はない。
道周の孤独な戦い幕を上げた。
一口メモ
ネタ切れ。
これ以上書いたらネタバレ。
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