太陽神の花婿 2
領域の、ひいては大陸の行く末を握る同盟が、「花婿探し」にかかっているとは誰が想像しただろう。
道周は、道中でセーネがスカーについて語った際に口を濁した理由がようやくわかった。「決して悪い性分ではない」しかし、まともな物差しで測ることは無謀であるのだ。
そして同時に、スカーの思惑を完全に理解したセーネは青ざめる。堪え切れずに立ち上がって抗議の声を上げた。
「ちょっと待ってくれスカー! その要望は余りにも――――」
「セーネ、今は妾の時間だ。いくら其方でも、他領域・他領主の御前で無礼が過ぎるぞ……!」
「ぐっ……――――」
スカーは鬼気迫る表情でセーネを睨み付ける。同時にその背後には金翅鳥を彷彿とさせる黄金の翼が広がっていた。
長身のスカーが小さく見えてしまう黄金の翼は、頭を垂れる全員に汗をかかせるほどの高熱を放っている。広げられた翼から舞い上がる黄金の羽根が地面に触れると、白い煙を立ち昇らせて粘土の床を黒焦げに焼いた。
スカーが見せ付けた権能は、「太陽神」の由来となった高熱・獄炎の異能である。スカーが持つ権能はこの1つではないが、この権能こそが太陽神のメインウェポンであることに違いない。
「ぐっ……。それでも、ここは異議を申し立ててもらおう。スカー、君の言った「花婿探し」は些か無謀ではないのか?」
「どういうことだ? その言い方だと、まるで「死人でも連れてこい」って感じだけど」
「それに近いことだよ、ミチチカ。彼女の言っていることは、ただの「お見合い」ってわけじゃなくて」
「それまでにしてもらおう、白夜王。今は神の時間だと、そう告げられたはずだ」
側近であるイルビスがセーネの言葉を遮った。険しい眼差しとともに鉄剣を振り抜き、実力行使も厭わない姿勢を見せる。
もちろん、脅迫まがいの口封じにセーネが屈することはない。が、スカーが言葉を続けることにより、セーネに時間を与えなかった。
「イルビス、そう急いて剣を抜くなと言っているだろう。が、セーネは妾の言いたいことを分かっているようだからな。これは互いの不利益をなくすため、情報の開示は平等にしておかないといけない」
スカーは困惑する特務部隊一同に振り向き、広げた黄金の翼を仕舞い込んだ。スカーの滑らかでよく焼けた背中には翼の痕跡はなくなっている。
そして悠然と歩み寄ったスカーは、表情をコロコロと変えて悪戯な笑みを浮かべた。
「妾が指し示す「婿」とは、誰でもいいというわけではない。妾に相応しい「婿」はこの世界でただ1人だけ。妾が200年前に婚約を交わした勇士だけ。
その名を「マサキ」と言う」
「……………………まさか」
道周とマリーは、耳に馴染む名前に眉をひそめた。まさか異世界に来て、このイントネーションの言葉を、名前を聞くとは思ってもいなかった。
「その者は、名前でなく別の呼び名で浸透しているか。そう、「勇者」と言うやつだ。
其方たちには、妾の婚約者である「勇者」を連れてきてもらいたい」
「な……」
「な…………」
「「「「「なにぃぃぃ!?」」」」」
ケロとした顔で言って見せるスカーは無邪気に笑う。
一方で無茶振りの極みを言いつけられた一同は、驚天動地の叫びを上げる。
「そんな気はしていた」とセーネは落胆し、大きく肩を落とす。




