再会
「こんあところで再開するとは喜ばしい。
……して、何をしているのですか?」
遭難した道周たちを引き留めたのは、一行と同じく全身をローブでくるんだ男の声だった。
真っ白だったであろうローブは砂塵と年季で古びており、その男がこれまでも砂漠地帯を何度も歩いていることを用意に想像させる。
そして男は4台の荷車を後方に引き連れている。このことより、往年の行商人であることは推察できた。
目元以外は隠れており、素性ははっきりしない男であったが、道周たちには思い当たる節がある。ローブでシルエットは隠れていても、被った帽子から覗く三角の耳の形はしっかりと見て取れた。
道周たちは獣人の商業団を知っている。とてもお世話になり馴染のある男の声に、一番の喜びを見せたのはマリーだった。
「ダイナーさん!」
「お久しぶりですマリー、ミチチカ。そしてセーネ嬢」
マリーに名を当たられた猫の獣人、「ムートン商会」の一団長を務めるダイナーは喜色を見せてフードと帽子を外した。相変わらず伸びっぱなしの頬髭を乾いた風に揺らし、吊り目を細めて微笑んだ。
広い肩幅を目一杯に張って、ダイナーは一行を一瞥してする。道周とマリー、セーネとソフィに柔和な微笑みを向けると、リュージーンで視線が止まる。
ダイナーにとって、リュージーンにはいい印象がない。かつては魔王軍として交戦した相手がこの場に居合わせることに、ダイナーが不信感を抱いてもおかしくはなかった。
ダイナーの表情の変化に気が付いた道周は、ダイナーが問い掛ける前に口火を切った。
「リュージーンは訳あって一緒に旅をしている。信用はしなくていいけど、警戒もしなくていいよ。俺たちが保証する」
「……貴方がそう言うのであれば」
ダイナーは鋭い吊り目でリュージーンを睨み付けながらも、道周の顔に免じて頭を垂れた。
うやいやしく頭を下げたダイナーは、表情を一変させてセーネに向き直る。
「……して、セーネ嬢はこんな砂漠で何をしておられるのでしょうか?
イクシラは新政府が成立したと聞きましたが、貴女は関係ないのですか?」
「ムートン商会は相変わらず耳が早いね。イクシラは義兄に任せているから、今の僕はただの旅人だとも。
今は「太陽神」のいる都市、「テゲロ」を目指している」
「そうでしたか。
ボスが先行して向かっているので、どこかで合えるかも知れませんね。俺たちも給水街に荷物を卸したらテゲロに向かう予定なので、ご一緒しませんか? その様子だと、道に迷っていたのでは?」
「うっ……」
ダイナーの指摘は見事にセーネの核心を突いた。ダイナーの慧眼にセーネは息を詰まらせながらも、渡りに船と言わんばかりに、ダイナーの提案を受け入れた。
そして、ダイナーの提案に胸を撫で下ろしたのは、何もセーネだけではない。取り乱したリュージーンに、一部始終を見守っていたソフィ、もちろん道周とマリーも安堵感に包まれている。
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
5人が高らかに声を揃えてお願いを申し入れた。ダイナーは申し入れを快く受け入れると、再びフードと帽子を被って一団に振り向いた。
「さぁ、第6給水街は近くだ。張り切って行くぞ!」
「「「おう!!」」」
ダイナーの号令に合わせて、一団が野太い轟鐘を上げた。
「近くだったんだ……」
ダイナーの言葉にセーネは肩を落とし、近くにあるという給水街へ足を向けて歩き出すのであった。




