魔女同盟
――――魔女同盟。
その一言をきっかけに、会議室にはマリーの甲高い声が轟いた。一頻り絶叫したマリーは、抗議の眼差しでテーブル中を見回す。
「ちょっと待って。「魔女」って、もしかして私のことじゃないよね?」
「他に誰がいる? 「魔女同盟」を名乗る以上、俺たちの顔はマリーだぞ」
キョトンとした顔でリュージーンが首を傾げた。その切れ長の瞳には冗談を言っている様子はない。
「無理無理無理無理! それこそ、私には荷が重いよ。
……そうだ。ミッチーに代表者をしてもらうのがベストだよ。ミッチー強いし、今回の事件でも五臓六腑の大活躍だったし」
「それを言うなら八面六臂だな。内臓全部吐き出しちゃってるよ」
「細かいことはどうだっていいの!
この通り、私よりミッチーの方が頭が回るのです。適任はミッチーでしょう。名前は「魔剣同盟」てかで」
「いいや。ミチチカじゃ不足している。
病床で伝えた「大事な話」とは、つまるところこのことさ。マリー、君でなければいけないんだ」
「え……?」
セーネが温和な口調でマリーを説得する。
調子のいい言い逃れを封殺され、マリーは言葉を失った。助けを求めるようにソフィへ目線を泳がせるが、視線がぶつかったソフィは首を横に振る。
「こればかりは私もセーネたちの意見に同意です」
「どうして……?」
四面楚歌になったマリーは、寂しげな声で呟いた。困惑した瞳が揺れ、動揺が手に取るように分かる。
「何も嫌がらせでマリーに任しているわけじゃない。皆がマリーなら信用できると思っているんだ」
立ち尽くしたマリーに道周が声をかけた。道周は優しく語り掛けマリーを席に座らせると、目を見て確かな言葉を紡ぎ出す。
「ナジュラでの戦いで、俺は最後の最後で居合わせることができなかった。その理由は簡単だ。敵が強いとか上手いとか関係なく、俺は前に出て戦う役割だからだ。いわゆる「特攻隊長」が同盟の頭は張れないよ」
「でも、私に務まるとは思えない。正直に言って、自信ないよ」
「できるさ。フロンティア大陸にやってきて、一番成長したのは誰でもない、マリーだ。
この世界で学んだ強さと弱さ、正しさとエゴ。そしてマリーが持ち合わせていた優しさ。それがあれば、きっと仲間が力を貸してくれる。そのためにリュージーンもソフィも、そして俺もいる」
「ですです。
大陸にやって来たときのマリーから大成長です。それは、ナビゲーターを務めた私が保証します!」
「そして僕たちも力を貸す。マリーのためなら、いつもより強くなれる気がしているんだ」
「みんな……」
道周とソフィ、セーネたちの真摯な訴えに、マリーは頭を殴り付けられたような衝動に襲われた。
道周とソフィが言うように、今のマリーは以前のマリーとは大きく変わっている。
襲ってくるミノタウロスに怯えて震えるだけの自分じゃない。
得た力に舞い上がり、何もできない自分じゃない。
修行で得た魔法は、確かな自分の才能であり力である。
もう守られるだけの自分じゃない。すでに守る側になっているのならば、みんなと支え合って守ってみたい。
それが、マリーの強さでありたい――――。
マリーの決意は固まった。この場の仲間なら、任せてみたいと思ってしまったから。
「分かった。やってみる」
マリーは潔く首を縦に振った。マリーが宿した決意の光に、道周たちは思わず鳥肌が立つ。
(本当に成長したな……)
道周は保護者のような心持ちでマリーを見守る。
話がまとまると、正式に「魔女同盟」が成立した。
「魔女同盟」を構成するのはリーダーのマリーと特攻隊長の道周、参謀のリュージーンと諜報員のソフィの4人だけである。しかし、魔女同盟は大陸を蹂躙する魔王を倒すための力を、着々と着けている。
北方の最大領土イクシラと、西方の最大領土グランツアイクの協力を取り付けてもなお、かの魔王を打倒するにはまだ足りない。
「俺たちはこれから南の最大領域「ニシャサ」へ向かう。ニシャサの同盟参加を何としてもこぎつける」
「あぁ。魔王軍幹部の手がここまで回って来ていたんだ。時間的猶予は多くないだろう」
参謀であるリュージーンの提案に道周が乗る。
そしてセーネやバルバボッサも同意し、次の目的地を見据えた。
最後に道周たちは、リーダーであるマリーに号令を仰ぐ。
期待の眼差しを受け、マリーはリーダーとしての初仕事を始める。
「イクシラとグランツアイクの同盟締結後、私たち「魔女同盟」は南の領域に向かいます!」
「「「おぉ!!」」」
マリーの快活な号令に合わせ、図太い声と可憐な声の雄叫びが重なる。
気合十分の一同は、次なる目的地を見据えている。
「ところで、「魔女同盟」って名前恥ずかしいから何とかなりません?」
そしてマリーの提案は、あえなく却下されたとさ。




